2010年5月27日木曜日

MotoGP2010年プレシーズンまとめ(タイヤワンメイクの弊害)

2009年シーズンはロッシとロレンソによるヤマハ同士の白熱したタイトル争いが繰り広げられた一方で、残る4強の二人、ドゥカティのケーシーとホンダのペドロサはそのタイトル争いに加わる事が出来なかった。

ケーシーは体調不良による3戦の欠場を余儀なくされ、スポンサーの心証を損なう結果となり、怪我によるプレシーズンテストの不参加からマシン開発の遅れを招いたペドロサも終盤になってやっと盛り返したものの、ピリっとしないままシーズンを終えた。

そうして始まった2010年のプレシーズンは、風雲急を告げる展開となる。

先ずはチームメイトのロレンソを遂に最大のライバルと認めたロッシは「同じチームにエースは二人もいらない」という、暗に共に2010年で契約が切れる自分とロレンソのどちらか一人を選べとチームに迫る様な発言をし、2011年に向けて大きなライダーの移籍、勢力図の書き換えが起こる事を予感させた。

また、ホンダのマシン開発に不満を募らせたペドロサは、現在のMotoGPでベストマシンはヤマハだと明言した上で、ロッシとコーナーでブレーキング勝負出来るマシン開発を要求し、2010年に期待通りのマシンが開発されなかったら2011年には他のメーカーへ移籍する意思がある事を示唆した。

一方で、ドゥカティとの関係が良好である事を強調するケーシーではあったが、長年ケーシー以外にドゥカティを速く走らせる事が出来ないライダーがいないという状況が続く中、ケーシーの3戦欠場という事態は、ドゥカティにはケーシーに替わるライダーの確保、あるいはケーシー以外のライダーも速く走らせる事が可能なマシンの開発し、ケーシーのみに依存している状況からの脱却が急務である事を強く印象付けたと言える。

2010年は4強が揃って今のチームとの契約が終了する。展開によってはライダーの大規模なシャッフルもあり得ると予感させられるシーズンインとなった。

そして、プレシーズンテストでは昨年型の正常進化版のマシンを投入し、相変わらず絶好調なヤマハと対照的に、ホンダ、ドゥカティは大きく性格を変更したニューマシンを投入し、経費削減の為プレシーズンテストが減らされている状況下で厳しい開発を余儀される事となった。

それでもドゥカティはプレシーズン最後のテストであるロサイル・サーキットでのテストでは、元々ドゥカティが得意とする超高速サーキットである事も幸いして、プレシーズン中全てのセッションでトップタイムをマークして来たロッシに対し、最終日に遂にケーシーがトップタイムをマークし、開幕に何とか間に合わせた事を印象付けたのに対し、ホンダはドヴツィオーゾが3位に入ったものの、エースのペドロサが13位に低迷するという異常事態となった。

ドゥカティとホンダの明暗を分けたのは2009年シーズンの取り組みの差にあったと言えるだろう。

2009年ドゥカティは元ホンダ・ワークスライダーだったニッキー・ヘイデンを獲得した。僕は当時、どうしてまたドゥカティと相性が悪いのが明白なライダーを獲得したのかと訝しんだ。2008年のメランドリの悲劇をまた繰り返すつもりなのかと大いに疑問を感じたのだ。

しかし、実際にはメランドリの悲劇からの教訓として、ケーシーしか速く走らせる事の出来ないマシンを、何とか他のライダーでも速く走らせる事が出来るマシンへと開発する為に、ホンダワークスでの開発経験が豊富であり、現在のドゥカティとはライディングスタイル的に相性の悪そうなニッキーを敢えて獲得したのだろう。

2009年当初、やや生彩を欠いていたケーシーは、マシンの重量配分が従来の極端なリアヘビーから、ややフロントに荷重を移した影響でベストセッティングを見つけるのに苦労していると説明していた。今思えばその重量配分の見直しはニッキーのライディングスタイルに合わせた変更であり、その成果はシーズン終盤に徐々に現れていた。

そして、昨シーズンのニッキーのデータを元に更に改良を加えたのが2010年型のデスモセディッチだと言えるだろう。プレシーズンテストからニッキーは昨シーズンの終盤を上回る好調を見せており、エースのケーシーに迫るタイムを記録する所まで来ている。もはやドカティはケーシーしか速く走らせる事が出来ない特殊なマシンではなくなって来ている事を印象付けるには充分なプレシーズンテストだったと言えるだろう。

ホンダにも昨シーズン中に2010年のマシン特性変更に向けた予兆はあった。それはシーズン途中にドヴィがフロントサスペンションをショーワからオーリンズに変更した事だ。それはダニがブレーキングで勝負出来るマシンを要求した事と関連していたに違いない。ホンダのマシンがブレーキングでヤマハと勝負出来ないのはブレーキング時にフロント周りが安定しない事に原因があるのだろう。そこで、その対策としてフロントサスをヤマハと同じオーリンズに変更したのだと考えられる。

しかし、その要求をした肝心のペドロサは2009年中はオーリンズのテストはしたものの実戦への投入は見送った。その事がペドロサの2010年プレシーズンを難しくしてしまったと言って良いだろう。

2010年型RC212Vはオーリンズのフロントサスを採用し、それに合わせてフレームを大きく変更して来たと思われる。昨シーズンからオーリンズを使用していたドヴィはいち早くそのマシンに適応し、ロサイルでのプレシーズンテストを3位のタイムで終えた。ところがエースのペドロサが13位と低迷したのは2009年オーリンズを実戦に投入しなかった為にドヴィ程オーリンズの特性を理解しておらず、また昨シーズンのデータを参考に出来るドヴィと違い充分なデータもなく迅速に適応する事が出来なかった事が影響していなかったとは言い難いだろう。

そして、興味深いはドゥカティにしてもホンダにしても、目指しているマシン特性はヤマハ的マシン特性だと思える事だ。ドゥカティもホンダも従来はトップスピードの利を最大限に生かせるマシン造りをしてたと言って良いと思う。それに対し、トップスピードにハンデのあるヤマハは、旋回性重視のマシン開発でそれに対抗し、タイトコーナーでドゥカティやホンダを抜き去る事が出来る様なマシン開発を目指して来たと言える。

しかし、ドゥカティもホンダも現在は旋回性の改善を大テーマとしていると感じる。特にフロントサスをヤマハと同じオーリンズに変更したホンダはまるで明確にヤマハのYZR-M1の様なマシンを開発しようとしている様にさえ見える。

これはタイヤワンメイクの弊害の現れと言えるだろう。かつて、複数のタイヤメーカーが参入し、タイヤの開発競争があった時は、各メーカーの特性に合わせたタイヤ開発、各ライダー(少なくともワークスのエース級ライダー)に合わせたタイヤ開発が行われていた。

しかし、現在はブリヂストンによるワンメイクになり、イコールコンデションのコントロールタイヤとなった。イコールコンデションと言えば公平の様に聞こえるが、実際にはマシン特性が違ってもライダーのライディングスタイルが違ってもタイヤの特性は同じという事であり、そのタイヤと相性の良いマシン、相性の良いライダーに取っては問題はないが、相性の悪いマシン、ライダーにとっては大問題であり、そのタイヤの特性に合わせる事を余儀なくされる事を意味し、本来のマシン特性、ライディングスタイルを充分生かす事が出来ないという事になる。

では、現在のコントロールタイヤと最も相性の良いマシンは何なのか?疑いもなくそれはヤマハのYZR-M1以外考えられない。ブリヂストンとしてもコントロールタイヤになってラップタイムが遅くなったとは言われたくない。逆に出来ればラップタイムを向上させ、直接的なライバルがいない中でも自社の技術力の高さをアピールしたい筈である。そのアピールが出来なければレースに参戦している意味がないからである。

その為には、今現在最も速いマシンと相性の良いタイヤを開発するのが早道であるのは言うまでもないだろう。今現在最も速いマシンは何か?と言えば、昨年のランキング1位2位を独占したヤマハのYZR-M1に他ならない。

タイヤというのはレースに置いては非常に重要なファクターであり、タイヤの消耗度の差が勝負の明暗を分ける事も少なくない。だから、どのメーカーも自社のマシンの特性に合わせたタイヤを開発して欲しいと思うのは間違いないだろう。しかし、コントロールタイヤとなり、タイヤの仕様は1種類だけとなって複数のメーカーのマシンに合わせた複数の仕様のタイヤが開発される事は無くなってしまった。

だったらメーカーはどうすれば良いのか?簡単である。マシンの特性に合わせたタイヤを開発してもらえないなら、逆に開発されたタイヤの特性に合わせたマシンを開発するしかないのである。

こうして、ドゥカティもホンダも現在開発されているタイヤの特性に合わせたマシン開発を余儀なくされていると言える。そして、それはどういう特性のマシンかと言えば、ヤマハ的特性のマシンという事になるのである。

その事が明確となった2010年シーズンはMotoGP史上に残る大きな変革の年となるだろう。今までは各メーカーが、それぞれのメーカーのマシン開発理論によって、それぞれ特性の違うマシンを開発してしのぎを削って来たのだが、タイヤワンメイクのレギュレーション導入によって、どのメーカーの開発の方向性が正しいかという争いではなく、同じ方向性のマシンをどこが1番上手に開発出来るかという競争に転換された年という事になるだろうからだ。

最後に1レースファンとして感想を言わせてもらえば、この方向転換は興味深い面はあるものの、はっきり言ってはなはだ面白くないというのが正直な所である。

2010年5月26日水曜日

2010年シーズンを迎えて

MotoGP(WGP)を観戦するようになって27年になる。WGPの存在を知って夢中になったのは1983年。そうあの歴史に残るキング・ケニーことケニー・ロバーツとファースト・フレディことフレディ・スペンサーによって熾烈なチャンピオン争いの結果ランキング2位に終わったケニーが引退した年だ。

当時は観戦と言ってもTV中継はなし。レース映像が観られるのは劇場公開される映画かビデオ位だった。それもシーズンオフにならないと観られない。シーズン中は月刊のバイク雑誌のレース記事で結果を確認し、写真でレースの様子を知る事しか出来なかった。

それが現在はTVで生中継でレース観戦が出来る様になった。レースの情報、ライダーのコメントやテストの情報までもインターネットでその日の内に知る事が出来る。つくづく良い時代になったと思う。

かつてはライブ撮影を中心とした自分のブログでMotoGPの感想を書く事もあったが、近年はもっぱらmixiのMotoGPコミュAkiさんのブログにコメントする位だったが、今年はもう色々な事が起こって、書きたい事があり過ぎるため、いてもたってもいられなくなってMotoGPとSBKの感想に特化したブログを新たに始める事にした。

今年はMotoGPは4強全員が契約の最終年となり、ライダーのシャッフルの可能性のあるシーズンとなっているが、開幕から前年チームメイト同士でタイトルを争ったフィアット・ヤマハヴァレンティーノ・ロッシホルヘ・ロレンソの二人が好調で、しかもホルヘの成長が著しく、昨年以上の熾烈な争いを予感させる一方、マシン特性を大きく変更して来たドゥカティ・マールボロケーシー・ストーナーレプソル・ホンダダニ・ペドロサは問題を抱える序盤戦となっており、特にストーナーとホンダを中心に早くも移籍話が加熱している。

また、今年のMotoGPは多くの有望なルーキーがデビューした事も注目のひとつで、特に昨年ルーキーイヤーでSBKチャンピオンとなったモンスター・ヤマハ・テック3のベン・スピーズと昨年250ccクラスの最後のワールド・チャンピオンとなったインターヴェッテン・ホンダ青山博一は注目だったが、ホンダは昨年型から大きく特性の変わったフレームに青山選手だけでなく、ベテランのサンカルロ・ホンダ・グレシーニマルコ・メランドリを始め多くのホンダライダーが苦しんでおり、波乱の展開となっている。

また、250ccクラスに替わって新しくスタートしたMoto2クラスは、ホンダのワンメイクエンジンというレギュレーションの元、日本のモリワキTSRを含む多数のコンストロラクターがしのぎを削る非常に面白いクラスになっていて、特にワークスが無くなった事と、エンジンパワーに関してはイコールコンデションとなった為、今まで無名だったチームやライダーにも大躍進のチャンスがあるエキサイティングなクラスになっており、事実CIPMOTO GP250富沢 祥也が開幕戦でMoto2クラス初の勝者になる等大活躍をしており非常に楽しみなクラスになっている。

一方で、SBKでは昨年僅差でタイトルを逃したNitro-Noriことドゥカティ・ゼロックス芳賀紀行が、飛躍的にトップスピードが向上した4気筒勢相手に思わぬ苦戦を強いられており、逆の意味で目の離せないシーズンになっている。

シーズンが始まって結構時間が経ってしまったが、少しずつ感想を書いて追いついて行きたい。そして、インターネット上の情報等も紹介したりリンクを掲載して、自分自身の覚え書き、収集情報の集約としても活用して行きたいと思う。