2013年8月3日土曜日

ドゥカティはL型レイアウトのエンジンを捨てない限り低迷脱出出来ないのか?

遂にカル・クラッチローの来季ドゥカティワークス入りが発表された。

C.クラッチロー、ドゥカティ・チームへの移籍が決定

一方で、2011年はそのカルとテック3でチームメイトだったアンドレア・ドヴィツィオーゾは一足早く今年からドゥカティ・ワークスへと移籍し、ロッシの後任という重責の中、開幕戦カタールGPで予選4位というヤマハに復帰にしたロッシを上回るポジションを獲得し、第4戦フランスGPではフロントロウとなる予選3位を獲得する等、好調な滑り出しだったが、第7戦アッセンでは、サーキットとドゥカティとの相性の悪さも影響し、フリー走行総合で予選2へ直行する10位以内に入れなかったばかりか、予選1でも同じドゥカ2台とCRT2台の後塵を拝し予選2への進出を逃して予選15位から、決勝はかろうじて10位に入るという低迷を極め、好調に見えたシーズン序盤の印象を霞ませる状況でシーズンの折り返しを迎えている。

現在のドヴィの状況は、以前このエントリーで振り返ったロッシの移籍初年度の状況を彷彿とさせるものだった。ロッシの場合も移籍直後のシーズン序盤は驚く程好調だったが、マシンの開発が進むに連れ、ニューマシンを投入するに連れ、逆にどんどん成績は低迷して行った感が強い。

2007年にドゥカティに唯一のタイトルをもたらし、ドゥカティを速く走らせる事が出来た唯一のライダーであるケーシー・ストーナーがドゥカを去ってから、ドゥカの不振は長く続いている。

何故、ドゥカは低迷から抜け出す事が出来ないのか?そして何故ケーシーだけがドゥカを速く走らせる事が出来たのか?この二つの問いは表裏一体だと言っていい。

ドゥカの低迷が続いてる原因はL4エンジンレイアウトが車体設計を難しくしているという事と、その問題を認識しているなら少なくともそのフレームと相性が悪いと分かっているブレーキング重視のライダーを起用してはならないのに、どちらかと言うとブレーキングを重視するライダーばかり起用しているからだと言っていいだろう。

ブレーキングを重視するライダーというのは、どちらかと言うと基本に忠実で車体で曲がるライダーだと言う事が出来、ケーシーはブレーキングを重視するタイプのライダーではなく、どちらかと言うと車体で曲がるのではなく、パワースライドで曲がるライダーだと言える。

しかし、ケーシーがドゥカを去った後、ドゥカワークスが起用したライダーはロッシもドヴィも、そして今回移籍が決まったカルもどちらかと言うと基本に忠実な車体で曲がるライディングスタイルのライダーであり、ブレーキングを重視するライダーだと言える。

だから、ロッシもドヴィも移籍した最初は今まで乗って来たブレーキング時の安定性の高い日本製マシンと大きく特性の違うドゥカに、自分の乗り方の方を合わせていたのだと思うが、二人ともドゥカの特性を自分の走り方に合う日本製マシンの特性に近づけて、自分本来の走りを出来る様にする事を目的に、マシンセッティングの改良やマシン開発に取り組んで行ったのだと思うのだが、そうすればする程迷路に迷い込んで低迷してしまうのだろうと思われる。

両者とも、先ずはドゥカの特性を理解し、ドゥカの特性に自分のライディングを合わせて走っていた方が成績が良かったと思われる事からも、ドゥカがL4レイアウトを捨てない限りは、ドゥカの特性に合うライダーのスタイルを理解して、現在のドゥカの特性のまま速く走らせる事が出来るライダーを選んで起用すべきだし、そうではなく、ケーシーの様な突出した独特のライディングスタイルのライダーしか速く走れない様なマシンから脱却したいと考えるなら、L4レイアウトと決別すべきだろう。

しかし、ケーシーを失ってからのドゥカはケーシー以外のライダーでも速く走れるマシンの開発を目指し、その為にホンダワークスやヤマハワークスでの開発経験のあるライダーを起用していると思われるにも関わらずL4レイアウトを捨てるという決断が出来ないでいる。

その戦略が根本的に抱えている矛盾こそがドゥカの低迷の1番の原因であると言っていいと思う。

では、L4レイアウトのどこが問題なのか?を考える前に、世間ではドゥカの抱えている問題を90度V型エンジンを採用している事にあると考えている人が多い様なので、その点の誤解を解いておきたい。今年のプレシーズンホンダのRC213Vが90度V4である事が公表されて世間を賑わせた。

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その話題で引き合いに出されるのはドゥカであり、多くの人がドゥカの問題を90度V4エンジンであると考え、RC213Vが90度V4である事が判明した事で、ドゥカにも技術力があればその問題を解決し、RC213Vと対等なマシンが開発可能である事が証明されたと考えたのではないかと思われる。

しかし、実際の所はV型であれ、L型であれ前後シリンダーの挟角が90度であろうが、75度前後であろうが、それはさほど大きな問題ではなく、それ以上にV型レイアウトかL型レイアウトかという事の方が大きな問題であると考えられる。

その証拠にホンダは80年代からRVFシリーズでは一貫して90度V4エンジンを搭載し、TTーF1、スーパーバイク、世界耐久、8耐で最速最強の名を恣にするほどの実績を残して来ているし、RC211Vで75.5度の挟角を採用したのはV5でバランサーなしで一次振動ゼロとする事が出来た為に過ぎず、V4のRC212Vでは一次振動をゼロにする効果は無くなったが、継続して75.5度の挟角を採用したのはエンジンを少しでもコンパクトにする事で、車体をコンパクトにする事を狙っていたと思えるが、車体をコンパクトにし過ぎたRC212Vではむしろ長い間フロントのチャタリングに悩まされる等問題も多く、特にそこまでしてコンパクトにする意味はなかったと思われる。

特にブレーキングの安定性が乏しく2010年にはとうとうペドロサから、その問題が解決されないなら移籍するとまで迫られて、サスペンションをオーリンズに変更する等車体を大幅に改良してその問題を解消するに至ったが、その結果RC212Vは800cc最終型の2011年型では翌年デビューした1000ccのRC213Vと外観の印象がほとんど変わらない程大柄になり、RC213Vでは75.5度の挟角は補機類のレイアウトが苦しくなる等のデメリットを上回るメリットがないと判断されて90度Vを採用するという結果になっている。

75.5度Vを採用したままの2011年型RC212Vで圧倒的な強さでケーシーがタイトルを獲得しているし、90度VながらRC212Vの延長線上で開発されたと思われるRC213Vではタイヤレギュレーションの問題等でタイトルは逃したとは言え、ケーシーも2011年に引けを取らない速さを見せ、ペドロサも最多勝を獲得する等タイトル獲得に匹敵する程の内容の成績を残した事から、90度Vと75.5度Vのわずか14.5度の挟角の差は車体設計に対する影響がそれ程大きくはない事を物語っていると思う。

では、V型レイアウトに対し、L型レイアウトのどこにそんなに問題があるのかという事を考えて行きたいと思う。

先ず、第1の問題はL型レイアウトだとエンジン長が長い為に普通に車体を設計するとロングホイールベースになってしまう事だと言える。並列レイアウトのエンジンに対し、V型レイアウトでも問題だと言われている事ではあるのだが、L型レイアウトの場合は、クランクケースを基準にして、前方シリンダーがほぼ水平に前方に突き出している為に、現存するエンジンレイアウトの中で最も前後長の長いレイアウトという事になり、V型レイアウトより深刻な問題になっていると言える。

この事は、ドゥカの長い歴史の中で昔から言われている事で、ドゥカの最大も問題と考えられて来たと言って良いと思う。

ロングホイールベースになると直進安定性は増すが、旋回性は悪くなるのが普通であり、旋回性を重視するレーサーの場合は直進安定性を著しく損なわない範囲でショートホイールベースにする事が望ましいのは言うまでもない。エンジン長が長くてもスイングアームを短くすればショートホイールベースにする事は出来るが、スイングアームを短くするとウィリー特性が悪化するし、リアタイヤへのトラクションがかかり難くなる。

この辺りは加速性能だけを競うドラックレーサーが通常より長いスイングアームを採用している事を考えれば、良く理解して頂けると思う。その狙いはウイリーし難くする事と、トラクションを向上させる事にあるのは明らかだ。

そこで、従来のドゥカはスイングアームピポッドレスのフレームを採用する事で、スイングアームの長さを犠牲にする事なく、ショートホイールベースを実現する手法を取って来た。

だが、ピポッドレスフレームにはおそらく剛性が不足するというデメリットがある筈だ。ロッシの様なブレーキング重視で車体で曲がるスタイルのライダーの場合、フレーム剛性というのは最も重要視する項目だろうと思われる。従ってロッシ移籍後のドゥカの開発はフレーム剛性の確保という方向に向かうのは想像出来た事であるし、以前のエントリーでも書いた様に想像通り、アルミフレーム化した上で、ピポッドレスの廃止へと進んで行ったのは必然だったと言えるだろう。

しかし、ロッシ在籍時ピポッドレスを廃止した事に対する悪影響がロッシの口から語れる事はなく、現在においてもドゥカからピポッドレスフレームへ回帰する動きは見られない。

ドゥカがどうやってピポッドレスフレーム廃止によるスイングアーム長不足の問題を解決したのだろう?と疑問を持ち続けていたのだが、最近になってどうやら解決出来ていないと感じさせるニュースが報じられた。

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この中でアンチウイリーの問題に取り組んだという事が書かれている。ドゥカがウイリーしやすいという問題を抱えているのだとすれば、それはスイングアームの短さが原因と考えられる。しかし、ドゥカはそれを電子制御によるアンチウイリーの改善で解決しようとしているのである。

しかし、それでは根本的解決にはならない筈だ。エンジン出力を調整する事でウイリーをしないように制御するという事は、立ち上がり加速時にエンジン出力を抑える事になり、立ち上がり加速で不利になってしまう。

その時に僕はある事に思い立った。

ドゥカティ GP12の現行エンジンはスクリーマーなのか?

僕は昨年ロッシの「GP12のエンジンは乱暴すぎる」と言っていたのに疑問を感じて上記のエントリーを書いた。その時の疑問は11年にGP12のプロトタイプに試乗した時にはエンジンが素晴らしいと言っていたのに、実際にそのGP12に乗った12年シーズンでは乱暴と言った事で、11年のプロトタイプの時点ではビッグバンだと公表されていたエンジンがスクリーマーに変更になったのではないか?と考えたからである。

しかし、どうやらその推理は間違っていた様だ。エンジンを乱暴だと言ったロッシの言葉をそのままストレートに受け止め過ぎてしまった故の間違いだが、11年に試乗したGP12のプロトタイプと実際にレースで使用された本物のGP12にはエンジン以外に大きな違いがあったのを見落としていたのだ。

そう、11年に試乗したGP12プロトはピポッドレスのカーボンモノコックフレームであり、実戦に使われたGP12はピポッドのあるアルミツインスパーフレームだったのである。

GP12のエンジンが乱暴過ぎたのではない。スイングアーム長の短い実戦用GP12はその為、ウイリーがし易く、そしてリアタイヤにもトラクションがかかり難く、立ち上がり加速時にリアタイヤがホイールスピンし易い等の弊害があった筈だ。

乗っている本人にすれば、リアがスピンし易くウイリーし易いとなると、エンジンが乱暴過ぎると感じたとしても不思議ではない。しかし、それをスイングアーム長が原因と考えず、エンジン特性のせいだと誤解したら、いくらエンジン特性を調整した所で解決する筈もなく、逆にエンジン出力を抑制する事でより競争力を損なう事になるだけだろう。

僕はこのテストがドヴィが散々な結果に終わったアッセンの直後だった事に注目した。アッセン直後のテストでアンチウイリーの改善に取り組んだという事は、アッセンでの不振の一因にそれが関係していたという判断に違いない。

先程も振り返った通り、ロッシはドゥカ初年度のアッセンでは、ロッシが得意とするサーキットだったという事もあり、3位表彰台のドヴィに接近する4位というドゥカ時代のドライでの最高位を残している。

対するドヴィだって、11年に3位表彰台に登っている位だから、アッセンは得意なサーキットだと言っていい筈だ。事実、昨年もサテライトマシンで3位表彰台に登っている。しかし、ドゥカに移籍した今年はロッシのドゥカ初年度の4位とは比べ物にならない低迷振りである。少なくとも11年の段階では、ドゥカに今程深刻なアッセンとの相性の悪さはなかったという事だろう。

では、12年のアッセンでのロッシの成績はどうだったのか?・・確認してみると予選10位決勝13位という惨憺たるものだった。ホンダワークスのドヴィと表彰台を争い、ドライで表彰台に立つ日もそう遠くないと感じさせられた11年のアッセンとは雲泥の差と言っていいだろう。

ドゥカにたった1年でアッセンとの相性をここまで悪くさせる何があったのか?答えは明らかだ。GP11はピポッドレスのカーボンモノコックフレーム、そしてGP12もGP13もピポッドのあるアルミツインスパーフレームである。

最早、ピポッドレス廃止を選択したのは、ドゥカのレース史上最悪の失敗、最大の改悪であると断じるのに充分ではないだろうか?

何故その決断をしたのかと言えば、全てはブレーキング時の安定性を確保する為にフレーム剛性を高める事が目的だった筈だ。しかし、ロッシは結局最後までブレーキング時の安心感を得る事が出来なかったとコメントして、最も安心してハードなブレーキングが可能だと評価するとヤマハに復帰し、現在もドヴィがブレーキング時の安定性が不足している事を課題に挙げる状況は変わっていない。

狙っていたメリットが充分得られていないにも関わらず、ここまで大きなデメリットを許容する理由は微塵もない筈だ。ブレーキング時の安定性の確保をとりあえず先送りにしても、再びピポッドレスフレームに戻す決断をする事が急務であると僕は考えるがどうだろうか?

では、そこまでのデメリットを受け入れてまで、日本製マシンと同じピポッドのあるアルミツインスパーフレームを採用したのにも関わらず、何故ドゥカは未だにブレーキング時の安定性を手に入れる事が出来ていないのか?

その答えもL型レイアウトのエンジン形式に問題があるという事が出来るだろう。エンジンというのはバイクの車体の中で最も重い重量物である。従って車体バランスを考える上で、エンジンの重量バランスは最も大きな要因であるという事が出来る筈である。

フレームを日本製マシンと同じにしても車体バランスが改善されないとすれば、残る問題は明らかである。L型エンジンの重量バランスが悪い為にフレームが同じでも、ドゥカの車体バランスは悪いままなのである。これ以上改善するとすれば、エンジンレイアウトをL型レイアウトから変更する以外に手はないだろう。

では、続いてL型レイアウトのエンジンがどの様に重量バランスが悪いのかという事を考えてみたい。

それを考える上で、先ずはどの様なエンジンレイアウトが重量バランスが良いのかという事を考えると、現在のMotoGPマシンを車体特性の良い順に並べるとヤマハYZRーM1>ホンダRC213V>ドゥカティGP13の順である事は異論の挟む余地はないのではないかと考える。

という事は、単純に重量バランスの良いエンジンレイアウトは並列4気筒>V型4気筒>L型4気筒の順であると考えて間違いないと思う。

並列4気筒とは言っても、ヤマハが80年代にGENESIS思想を掲げて開発した前傾並列4気筒が現在のベストなエンジンレイアウトと考えていいだろうと思う。

前傾並列4気筒エンジンは、それまで4サイクルのプロダクションレースに力を入れて来なかったヤマハがその為に4サイクルの大排気量車のセールスで他社に劣勢だったのを好転させる為にプロダクションレースに本格参入する際にそのベース車として開発したFZ750に初搭載されたものである。

4サイクルのプロダクションレースで他車に遅れを取っていたヤマハだけに、そのレイアウトを決定するのには様々な検討と試作を経ての事だろう。当然レーシングエンジンとしてはベストと考えられていたV型4気筒を採用するプランもあり、実際にプロトタイプのレーシングマシンも製作されたが、最終的にはプロダクションレースーのベースには前傾並列4気筒が採用され、プロトタイプマシンまで製作されたV4プロジェクトは市販車のV-MAXとして結実した。

前傾並列4気筒エンジンはダウンドラフトキャブを採用し、吸気ポートと排気ポートをほぼストレートという理想的なレイアウトにする事が最大のメリットであったが、その事がシリンダーヘッドという幅広な重量物がガソリンタンク直下の高い位置に存在するという重量バランスとフレームレイアウトのデメリットを同時に解決する事になり、新世代の理想的なエンジンレイアウトとしてGENESIS思想を掲げる根拠となっている。

FZ750に搭載されたシリンダーの前傾度は45度であり、従来の直立型並列4気筒に比べエンジン前後長が長くなる事が唯一のデメリットであり、実際FZ750はいかにも前後に長いロングホイールベースと思われるスタイルが特徴的だあった。

しかし、FZ750はそのデビューレースである85年のデイトナ200マイルで、エディ・ローソンのライディングでライバルのフレディ・スペンサーの駆るVFR750Fに破れデビューを勝利で飾る事は出来なかったが、翌年のデイトナ200マイルではフレディとVFR750Fを破って優勝を飾り、レースベース車としての素性の高さを証明している。

だが、8時間耐久ロードレースにそのFZ750ベースのFZR750を開発する事になったヤマハのレース部門はGPレーサーのYZR500と同じディメンションを実現する為にFZ750のエンジンを10度後傾してマウントし、実質的にシリンダーの前傾度を35度に設定した。

FZR750もエンジンブローによるリタイヤを喫し、デビューレースを飾る事は出来なかったが、ケニー・ロバーツの手により当時のコースレコードを更新。レース内容でもRCB以来プロダクションレースの長い経験を誇るホンダの黄金期を築く事になるRVFと現役WGPライダー、ワイン・ガードナーの組み合わせを圧倒していた。プロダクションレースに本格参入したばかりのヤマハがそれだけの成果を上げた事でも、ヤマハが見い出した前傾並列4気筒エンジンのレースエンジンとしての資質の高さを証明したと言えるだろう。

それ以後ヤマハの並列4気筒エンジンは前傾35度を採用しており、他社の並列4気筒エンジンもそれに倣ったレイアウトを採用し、現在ではプロダクションレースの世界では主流のエンジンレイアウトになっており、ヤマハのGENESIS思想の先見性が証明された形になっている。

前傾並列4気筒エンジンがレース用エンジンとしてベストなエンジンレイアウトとするならば、その1番のメリットは後方シリンダーが存在しない事だと言えるだろう。シート下のスイングアームピポッド部やリアサスペンションの設計をする上で邪魔になる位置にシリンダーが存在しない事は車体設計上の大きなメリットになる筈だ。

そして、重量バランスという事で考えるなら、後方シリンダーがなく、シリンダーという重量物が前方に集中している前傾並列4気筒がベストだとすれば、後方シリンダーの存在は重量バランスにおいて大きなデメリットになると考えられる。

ホンダはL型エンジンを自社のアイデンティティと考えているドゥカの様な拘りはなく、エンジンレイアウトがV字に見えようがL字に見えようが構わず、車体設計において試行錯誤を繰り返しベストなレイアウトを模索したのではないかと思うが、ホンダのV型レーシングエンジンは、実際には完全なV字レイアウトという訳ではなく、20度程前傾している。

恐らくは前後シリンダーのあるエンジンとしてのベストな重量バランスは、この20度前傾付近だと考えて良いだろう。

興味深いのは、ヤマハの前傾並列4気筒エンジンでも、ホンダの前傾V型4気筒エンジンでもメインフレームのステアリングピポッド付近のやや下方にシリンダーヘッドが存在するというレイアウトになっている事である。

現在のMotoGPマシンで、その付近にシリンダーヘッドが存在するレイアウトとなっていないのはドゥカだけであり、その事が重要な意味を持っている事が容易に想像出来る。

つまり、メインフレームのステアリングピポッド付近のやや下に最も大きな重量物があるのが前傾並列4気筒エンジン車であり、その部分にその約半分の重量物があるのがV型4気筒エンジン車であり、その部分にこれといった重量物が存在しないのがL型4気筒エンジン車であるという事が出来、これは言い方を変えれば、メインフレームのステアリングピポッド付近のやや下方に重量物があればある程、車体バランスは向上する。もしくはブレーキング時の安定性が向上するという仮説が導き出せる事になる。

それはどういう理由によるものだろうか?考えてみると簡単な事である。ステアリングピポッド部というのは、フロントフォークの支点となる場所である。その付近に重量物があるという事は、ブレーキング時にフロントフォークに荷重がかかり易い事を意味し、フロントフォークに効率よく荷重がかかる程、ブレーキング時の安定性は増すのだろうと解釈する事が出来る。

また、前傾並立4気筒エンジンでも前傾V型4気筒エンジンでも、メインフレームのステアリングピポッド付近からその下方にあるシリンダーヘッドに対しエンジンハンガーが伸びエンジンがマウントされている。メインフレームのステアリングピポッド周辺部は最も高い剛性が要求される部分であるが、両者の場合シリンダーヘッドがメインフレームのステアリングピポッド部の補強メンバーとして活用されていて、剛性を高めるのに一役買っているものと思われる。

ドゥカの場合、その部分にシリンダーヘッドが存在しないので、フレーム自体の剛性が並列4気筒車やV型4気筒エンジン車と同等だと想定した場合、シリンダーヘッドによる補強がない分剛性不足になると考えられる。

それを補おうとすれば、メインフレームのステアリングピポッド部を今以上に幅を広げたり厚くする等する必要があるだろう。というか、他車では存在するシリンダーヘッドと同じ位の重量物を補強メンバーとして追加する必要がある筈だ。

しかしながら、ドゥカの場合、他社のシリンダーヘッドが存在する場所には、レイアウト的にはエアクリーナーボックスが存在すると考えられ、それは不可能だと考えられる。また仮に出来たとしても、他車であればそれをシリンダーヘッドという必要な部品で兼用出来るのに対し、ドゥカの場合、シリンダーヘッドを兼用せずに同じ位の補強メンバーを加える事を想定すると、その分車重が増えるというデメリットを伴う事は避けられない。

シリンダーヘッドという重量物が存在すべき場所にエアクリーナーボックスという、恐らくは非常に軽く剛性も低いパーツが存在すると考えれば、そのデメリットの大きさは想像するに難くないと思う。

それだけではなく、前方シリンダーがほぼ水平という、限りなく前寄りの低い位置にある事、後方シリンダーがほぼ直立という高い位置にある事も、重量バランス的に大きなデメリットとなっている事も間違いないと思うが、そのデメリットを検証するまでもなく、L型レイアウトというのが、如何に多くのデメリットを抱えているレイアウトなのかが理解出来るのではないかと思う。

こう考えると、L型レイアウトを採用している限り、ハードなブレーキングを得意とする様なライダーには全く不向きなマシン特性を改善する事は全く不可能だと考えざるを得ない。

L型レイアウトを諦めるか、ブレーキング重視のライダーでも速く走らせる事が出来るマシン開発を諦めるかの、二者択一をするしか道がない事は分かると思う。この矛盾する二つの事を両立させる事はどんなに考えても不可能なのだ。

L型レイアウトを捨てると言っても、今のエンジンをそのまま35度程度後傾してマウントさせれば、それで済む話だと思う。エンジンの設計は変えてない、ただ、少し後傾してマウントしただけで、L型エンジンである事には変わりはないと主張する事も出来なくはないだろう。

しかし、ドゥカのアイデンティティがそれを許さないのだとすれば、ドゥカはブレーキング重視のライダーでも速く走らせる事が出来る特性のマシン開発を諦め独自の道を進むしかないだろう。

異なったエンジンレイアウトのマシンが同じ特性になる事はあり得ない。ドゥカが飽くまでもL型レイアウトを採用し続けるのであれば、ロッシ移籍以前の様に、L型レイアウトに合った車体設計を追求し、その車体特性に合ったライディングスタイルのライダーを起用、または育てる事を考えるしかないと思う。

おそらく、L型レイアウトのエンジンに最もマッチする車体は、ドゥカが長年のノウハウの果てに辿り着いたピポッドレスのカーボンモノコックフレームではないかと思う。

その完成の域に到達したマシンで、ロッシはウェットレースとは言え、最速のRC212Vに乗り絶頂期にあったケーシー・ストーナーと互角以上のバトルをして、接触転倒させしなければ優勝していたかもしれないと思える程のレースをした。

多分、あの時のGP11はドゥカのレース史上、最も完成の域に達したレースマシンだったのではないかと思うし、結局実戦に投入される事はなかったピポッドレスのカーボンモノコックフレームを採用したGP12が投入されていたら、ロッシとドゥカの2012年シーズンにはもっと違ったストーリーが待っていたのではないかと思う。

結局、ロッシとドゥカの2年間はロッシの決断が間違っていた事を証明する2年間であったのと同時に、ロッシが移籍する前までのドゥカティの歴史が間違っていなかった事を証明する2年間だったのではないかと思う。

結局L型レイアウトエンジンを搭載するドゥカの特性を、前傾並列4気筒エンジンを搭載するヤマハM1を理想の特性とするロッシの望む特性にしようという考え自体が根本的に間違いであり、そもそも不可能な挑戦だったのだ。

ロッシは自らの間違いを認めて、ドゥカを去った。しかし、ドゥカは今もロッシ移籍以前の自らの歴史は間違っていなかったと認める事が出来ず迷走を続けている。

僕は全てのメーカーのレースマシンが同じ方向性の特性になる必要はないと思うし、レースマシンもライダーも個性があってバラエティに富んでいた方が面白くていいのではないかと思う。

ドゥカティには、是非とも自らのアイデンティティを胸を張って肯定して、日本メーカーとは違う独自の道を進む決断をして欲しいと思う。

2013年7月7日日曜日

ロッシ、ヤマハ復帰7戦目で移籍後初優勝

スートナーが引退し、大型ルーキー、マルケスがレギュレーション変更を受けてレプソルホンダから最高峰デビュー、そしてドゥカティでの2年間の不振を経てロッシがヤマハワークス復帰と話題の多い2013年シーズンが開幕し、7戦目のダッチTT・オランダGPで遂にロッシがヤマハワークス復帰後初優勝を遂げた。

決勝レース:V.ロッシが2010年10月以来2年8ヶ月ぶりに優勝

ロッシはもう終わったなどと嘯く者も少なくないが、僕は去年のエントリーにも書いた通り、シーズン後半にはまた優勝争いに加わってくれるだろうと予測していたので、それは僕の予想より少し早く実現した。やっとという感想を持った人も多いだろうけど、僕としては思ったよりも早かったという印象だ。

僕がロッシが本来の速さを取り戻すのにはもう少し時間がかかると思っていたのには二つ理由がある。

ひとつは、ヤマハとは全く特性の違うドゥカティに2年間も乗っていた為に、ライディングのフィーリングが戻るのに結構時間がかかるだろうと思っていた事。

もうひとつは、長年乗り馴れたヤマハのマシンとは言え、2年間の間に開発も進み、特に2012年には800ccから1000ccに変更になり、エンジンも車体も完全に新しくなっており、2年前のデータはもう流用出来ないので、新しいマシンの走行データが揃ってロッシの走りに合わせたセッティングを出来る様になるには時間が必要だと思っていた事だ。

特にその1000ccのM1はロレンソが主導で開発したマシンであり、ロッシがいなくなった2011年のロレンソの走行データを基に開発され、更に2012年にロレンソの実戦データを基にモデファイが加えられ熟成されて来たマシンである。ロッシが主導で開発してた頃のM1とは特性が大きく変わっている可能性も高い。

だから、セパンで行われた今年最初のプレシーズンテストの初日にロッシがいきなりロレンソから0.3秒落ちのタイムを記録した時には正直少々驚いた。2年間のブランクを経て、データのない1000ccのM1に乗っていきなり、そのマシンの開発を主導し、去年1年間の豊富な走行データを持っているロレンソにそこまで接近したタイムを出せるとは思っていなかったからである。

オフィシャルテスト1日目:D.ペドロサが1番時計発進

それはやはりヤマハの持つ基本特性がロッシのライディングスタイルにベストマッチしており、ロッシがそういう特性のマシンで走る事を渇望していたからこそだと思う。

僕はロッシが遠からず、また優勝争いに加わるレベルに戻って来るだろうという予測に改めて確信を強めたが、それでもそれがシーズン後半までかかるだろうという予測を覆すまでには至らなかった。何故ならその0.3秒を縮めて行く事とこそが本当に困難な事だろうと思っていたからだ。

しかし、ロッシはその後も順調にプレシーズンテストを重ね、ヘレスでのプレシーズンテストでは遂にトップタイムを記録する。

オフィシャルテスト2日目:V.ロッシがヤマハ復帰後初の1番時計

これはヘレスがヤマハ向きのサーキットであり、ロレンソよりもヤマハの特性にジャストフィットするロッシのライディングスタイルがより効力を発揮出来るサーキットである事を示しているとも言えるが、それでもテストはテストであり、実際のレースで直ぐにロッシがロレンソと真っ向から競り合いが出来るとは思わなかった。

レースで重要なのは一発のタイムではなく、長いレースで安定して高いラップタイムをキープする事が重要であり、それは実際にレースをやってみないと分からない。実際に、これまでもプレシーズンの結果を基にシーズンの展開を予想しても、その予想通りの展開にならない事の方が多い。

それでもロッシは開幕戦のカタールGPでヤマハ復帰戦を2位表彰台獲得という申し分ない成績で飾った。

V.ロッシがヤマハの復帰戦で逆転の2位を獲得

だが、それ以後の5戦は表彰台から遠ざかっていた。特に予選でなかなかセカンドロー以上のポジションを獲得出来ず、また決勝レースでも序盤の出遅れを挽回出来ずにそのまま差を詰められずレースを終えてしまうパターンから抜け出せなかった。

序盤を除けばトップとほぼ遜色ないペースで走る事は出来ていたのだが、2位表彰台に上がったカタールGPにしても序盤に格下のブラドルを抜くのに手間取る等全盛期のロッシらしい走りが出来ていない事も事実であり、恐らくはマシンの状態が自信を持って思いっきり攻められる程仕上がっていない事を想像させる物だった。

しかし、自信を持って思いっきり攻められない状態のマシンで、トップのライダーと変わらないタイムで走る事が出来ているので、マシンの状態がロッシが理想とする状態に仕上がればかつての様な強さが蘇って来る事には疑問を差し挟む余地がないという思いは益々強くなった。

だが、それと同時にある不安が頭をよぎる様にもなった。それはロッシが初日にポンと好タイムを出し、その後セッティングを中々進める事が出来ずセッション毎に順位を下げて行くという傾向が気になったからだ。

従来のロッシは初日から直ぐに好タイムを出すという事は少なく、セッションが進む毎に段々とセッティングを煮詰めて行き順位を上げて行く事が多く、予選までにセッティングを詰め切れず決勝の朝のウォームラップでやっとセッティングが決まるという事も多かった。

それはヤマハのマシンはセッティングの幅が広く、アジャスト出来る箇所も多い為に、セッティングで大きく特性を変える事が可能であり、特性の違うサーキットにもそのサーキットに合うベストセッティングを導き出せれば非常に速く走る事が出来る代わりに、そのベストセッティングを導き出すがのが非常に難しいという特性を持っていると言われているからだ。

一方、ホンダのマシンはヤマハに比べるとセッティングの幅も狭く、セッティングを変えてもヤマハ程大きく特性が変わるという事はないと言われている。だから、良いベースセッティングが見つかるとサーキット毎にセッティングを変更するのは微調整程度で、基本的にはどのサーキットでもそのマシン特性の良い部分を引き出して走る事が要求されるが、その代わりセッティングに悩まされる事は少なく、逆に特性が合わないサーキットではいくらセッティングを追求しても中々改善する事が難しいと思われる。

その差が車体のヤマハとエンジンパワーのホンダの両者の方向性の違いとなっている訳なのだが、ロッシの様にハードなブレーキングを武器とするライダーはヤマハの様にピンポイントのベストセッティングを施す事が可能なマシンでないと中々好成績を残せないが、ストーナーの様にあまりブレーキングを重視せず、パワースライドでマシンを曲げて行く様なライダーであれば、ホンダの様なマシン特性でも問題ないと思われる。

ロッシがどうしても好成績が残せなったドゥカティでストーナーが好成績を残せたのはその為だ。ただし、ストーナーの乗り方もマシンのバランスが良くないと思い切った走りは出来ない。シーズン序盤でベースセッティングが中々決まらない状態では、ストーナーも余り速く走れない事が多かったが、一度バランスの良いベースセッティングを見つけるとその後は安定して好成績を残せる様になったものだ。ただし、ドゥカティの基本特性と相性の悪いサーキットでは、セッティングの変更で対応する事が難しく、マシンとサーキットの相性の差に成績が左右され易い。

そして、現在のM1の開発を主導しているロレンソはロッシの様にブレーキング重視のライダーではなく、ストーナーの様にパワースライドを多用するライダーではないが、どちらかと言えばコーナリングスピードを重視するライダーでヤマハで成功したライダーとしては珍しくどちらかと言うとホンダと相性が良さそうなライディングスタイルのライダーだと言えると思う。

ロレンソがヤマハで成功したのは、ヤマハのエンジンパワーがホンダにかなり追いついたという事が言えるだろう。それはクロスプレーンカムシャフトの開発が功を奏した事と、MotoGPクラスの経費削減策でエンジンの台数制限やタンク容量の制限による燃費への要求が厳しくなった事で、エンジンパワーの差が大きく出難くなった事が言えると思う。

また、以前のエントリーでも述べた通り、タイヤワンメイクにより、各メーカーの特性に合わせたタイヤ開発をして貰う事が出来なくなった為に、車体のバランスの良さがタイヤの消耗度に直結する様になり、基本的に旋回性の高いヤマハの方がタイヤへの負担が少なくタイヤの消耗を低く抑えられるという事が、ホンダ的な走りをするライダーに取ってもヤマハに乗るメリットが大きくなったという事も言えると思う。

従って、ロレンソはヤマハライダーではあっても、どちらかというとマシンセッティングの考え方もホンダライダーに近く、一度バランスの良いベースセッティングを決めたら、サーキット毎にまり大きくセッティングを変える事はしないのではないかと思われる。

ロレンソがどこのサーキットでも、レースウィークの初日から直ぐにトップかそれに準ずるタイムを出し、セッションが進んでもそのままのポジションをキープし、セッティングを外したりセッティングで苦労するという事はほとんどない。

特にロッシがドゥカティに移籍する前は、初日からタイムが出せるロレンソと初日には中々タイムが出ないロッシとの差は大きいという印象があった。

とことが今年はロッシが初日からポンと好タイムを出す事が多く、これは調子が良いのかな?と思っているとセッションが進むに連れ以前とは逆に順位が落ちて行く事が多く、これはもしかするとM1のセッティング自体の幅が狭くなってセッティングを変えてもあまり特性が変わらない様な性格になってしまったのではないか?という疑いが頭をもたげて来たのだ。

現在のエースのロレンソに合わせたマシン開発を考えた場合、ロレンソ自身がベースセッティングから大きくセッティングを変更しないタイプだとすれば、余りセッティングの幅を広げたりアジャスト出来る項目を増やす様な必要もなく、むしろ無駄な事だと開発陣が考えたとしても不思議ではない。

セッティングの幅の広い車体造りというのは、ヤマハのマシン造りにおける伝統的な考え方であり、それは簡単には変わらないだろうという思いもあったが、ライダーが世代交代する様にエンジニアだって世代交代すれば、以前とは違った考え方をするエンジニアが開発を主導する事だってあり得るだろう。

特にライディングスタイルで言えば、ロッシの様にブレーキングを重視するスタイルというのは現在のMotoGPではオールドスタイルとなりつつあり、ストーナーやロレンソの様なコーナリングスピード重視のスタイルの方が主流だと言える。マシン開発でも、そういう現在の主流のスタイルに合わせた新しい開発コンセプトに移っていくという事は充分あり得る事の様にも思えて来たのだ。

ところが、第6戦が終了した後のアラゴンテストでロッシは「課題だったブレーキングを改善するセッティングを見つけた」とコメントし、その直後の第7戦オランダGPで鮮やかにヤマハ復帰後の初優勝を達成してみせた。

たまたま、ロレンソがフリー走行の転倒で鎖骨を骨折する怪我を折ったり、ペドロサもRC213Vと相性の良くないサーキットだったのか最後までセッティングを詰め切れず本来の走りが出来ず、更にマルケスも右手の小指と左足の親指を骨折しているという状況が重なった事もあり、もしロレンソもペドロサもマルケスも万全だったら優勝出来ていたかどうかは分からない。

しかし、セッティングの問題が解決したという最初のレースで、例え6戦振りに表彰台に戻ったとしても、開幕戦で2位表彰台に上がっていただけに、あれ程強いロッシが戻って来たという強い印象を受ける様な感動的なレースにはならなかっただろう。

それを例え幸運が味方したとは言え、セッティングが改善したという最初のレースを優勝という形で結果を出して来る辺りが流石はロッシだと思う。

だが、今後は万全の状態のロレンソやペドロサと競り合ってどこまで戦えるかが問われる事になる。両ライダー共そう簡単には勝たせてくれないだろうけど、開幕戦でブラドルを抜きあぐねていた時の走りとは一転して、前のライダーに追いつくと様子を伺う間もなく、ファーストアプローチで一気に抜去るというロッシらしい走りが蘇って来たので、今後ロレンソやペドロサ相手にレースを盛り上げる走りを見せてくれるだろうと思う。

ただし、ロッシらしい走りが出来る様なセッティングが出来ないマシン特性になってしまったのではないか?という僕の疑惑は杞憂に終わったものの、オランダGPのセッティングがそのまま他のサーキットでも通用するとは限らず、そのセッティングをベースにしながら、サーキット毎の特性に合わせてアジャストして行く必要はあり、その為のデータはまだ充分とは言えないだろうから、今後もサーキットによって多少の浮き沈みもあるかもしれない。

しかし、ロッシのあの切れ味鋭い走りが戻って来たからには、今後のシーズンが面白いものになるのは間違いないだろう。

また、セッティングが決まってからの走りを見ると、今までロッシの走りを最大限生かすセッティングが出来ていない状態で、ロレンソとほぼ同程度のタイムを出せていた事に改めて驚きを覚えた。

これは、以前のヤマハ所属時代と違い、初日から好タイムをポンと出せる様になった事も含めて、どうしても好みのセッティングにならならいドゥカティで最大限の結果を出そうと努力して来た2年間でロッシ自身も成長し、ベストでないセッティングでもある程度のタイムを出せる走りを身に付けたのだと言えると思う。

特にロッシのライディングの最大の特徴でもあり、最大の武器でもあるブレーキングが自信を持って強く出来ない状態のマシンを、ブレーキング以外の部分で頑張って速く走らせるテクニックを、それも本来ブレーキングを余り重視せずコーナリングスピードを重視するスタイルで世界タイトルを2度も獲得したロレンソに迫るタイムが出せるまでハイレベルのテクニックを身に付けたのだと考えると、34歳になってもまだ進化するロッシの凄さを改めて思い知る。

ロッシはドゥカティ時代、常にドゥカティを自分の好みの特性のマシンを仕上げる事を目標にして来たのだと思う。しかし、考え方を変えて、ドゥカティの特性をストーナーとドゥカティのエンジニアが追求してひとつの完成の域に達した状態から大きく変更せず、ロッシの方が自分のスタイルを変えてそれを乗りこなす事を目標としていたら、もしかしたらドゥカティ移籍でもっと大きな成功を納めたのかもしれないと思う。

その証拠に以前のエントリーでも書いた様に、ロッシがドゥカティ時代で最も安定して速かった時期は、まだストーナーが開発したマシンに乗っていた移籍直後だったという印象があるので尚更だ。

しかし、ロッシ自身がその付け焼き刃のライディングスタイルでは、本来その様なライディングスタイルを得意とし、キャリアを通してそのスタイルを磨き上げて世界のトップにまで登り詰めたロレンソの様な相手に対しては、ほぼ近いタイムを出せる所まで迫れても、そのライダーに勝つレベルのは届かないと判断していたのだと思う。

やはり、本来自分が得意とするスタイルを究極にまで磨き上げてこそ、そういうライダー相手に勝負して勝つ事が出来るのだという思いがあったのだろう。

そして、ロッシはヤマハへの移籍を決断し、そしてヤマハで再び自分自身の本来得意とするライディングスタイルで、現在の世界のトップライダー達と競り合って勝てるレベルに戻って来れた事に確信を持ったに違いない。

ロッシは少なくとも後1回は世界タイトルを穫りたいという目標を胸にヤマハに復帰した。1年目は2年間のブランクの後で、かつてのライディングを取り戻す為の準備期間という位置付けでタイトルを獲りに行く勝負のシーズンは2014年シーズンになるだろう。

ロレンソとペドロサ、そして来シーズンにはその2人以上の最強のライバルに成長しているかもしれないマルケス相手に、もう1度タイトルを穫れるかどうかは分からないし、かなり厳しいかもしれないと思う。

しかし、レース史に残る様な素晴らしいシーズンになるのではないかと予感させるには充分だし、その来年の展開を占いながら今シーズンの中盤から終盤かけてのレースも楽しみに観て行きたいと思う。

2012年12月31日月曜日

ロッシとドゥカティ、アヴァンチュールの終焉

2012年最後のエントリーは、遂に終止符を打ったロッシとドゥカティの挑戦について触れておきたい。

僕は以前よりライダーのライディングスタイルとマシンとの相性の重要性を主張して来ており、ロッシのドゥカ移籍に際しても、過去のエントリーにも書いたように「ドゥカはロッシの様なランディングスタイルのライダーが決して乗ってはいけないマシン」だと思っていたので、結果的にはそれが正しかった事が証明されてしまったと言える。

しかしながら、ロッシがその予想を裏切り、奇跡的な偉業を成し遂げる事を期待もし、特に移籍直後の数戦では予想を超える好結果を残していた事から、その期待を募らせていたので、結果的にやはり奇跡は起こらなかった事は残念でもある。

でも、傷口を広げる前にヤマハへの復帰という屈辱的な決断をした事は懸命だと思うし、GP史上稀に見る偉大な記録の数々を打ち立ててきたロッシの貴重な才能を奇跡でも起こせないと達成出来ない様な無謀な挑戦に浪費するよりも、残されたレースキャリアでロッシと相性の良いマシンで思う存分その才能を発揮して活躍をして欲しいと思う。

また、ロッシ程の偉大なライダーでもライディングスタイルとマシン特性の相性の壁というのは、超えることが出来ない程大きなものだという事実を、後続のライダー達に大きな教訓として印象付ける結果となった事は良かったのではないかと思う。

自分が乗るべきマシンの選択を誤ると、本人のレース生命を脅かす結果にもなりかねない。ロッシ程のスーパースターだからこそ、ヤマハ復帰というアクロバットが実現したが、普通のライダーであればこのまま引退に追い込まれてもおかしくなかったと言えるだろう。かつてのライバル、ビアッジが「2年低迷してあのオファー、よほど神通力があるのだろう。」と唸ったのも頷ける。

かつて皇帝とまで呼ばれたそのビアッジでも、レプソルホンダでのたった1年の低迷、それもランキング5位というドゥカ時代のロッシよりは幾分マシな成績だったにも拘らず、MotoGPでのシートを失ったのだから。

それにしても、移籍直後の予想外な好成績(僕以外の人はそうは思わなかったかもしれないが・・)を思い返すにつれ、開発の方向性さえ誤らなかったら別の結果があったのではないか?という残念な思いが拭えない。

ずっと日本製マシンで好成績を残してきたロッシとバージェスなら、アルミフレームを選択するのではないか?というのは、予想通りだったが、それは過去のエントリーでも述べたように、L型エンジンというフレーム設計上問題の多いエンジン形式故に、ドゥカのレース部門が長年味わってきた苦悩を追体験する様な選択であり、とても1年で結果が出せる様なものではなく、無謀な決断だったと言えるだろう。

結局、その長い歴史を経てドゥカが辿り着いたカーボンモノコックフレームという選択が、L型エンジンにはベストな選択だったと言えるのかもしれない。

そして、2011年シーズン当初ロッシが乗ったGP11は、そのベストの選択肢をストーナーとヘイデンが磨き上げた結果であり、そのマシンに乗っていた時がロッシの成績も最も安定していたという感がある。

そう考えると、あのまま2011年はカーボンモノコックのGP11に乗り続けデータ収集とセッティングの試行錯誤だけに専念し、ロッシがファーストインプレッションで高く評価したカーボンモノコックのGP12を熟成させて2012年に臨んでいたら別の結果が待っていたかもしれないと思う。

それでなくても、どんどんニューフレームを投入した2011年に対し、2年目の2012年シーズンはほとんどマシンの進化は見られず、まるで開発予算が枯渇したかの様な印象を受けたが、2年目にタイトルを狙いにいくマシンを開発するための準備期間の筈だった2011年に開発費を使い過ぎて、肝心の2012年に十分開発を進められなかったのではないかと残念に思える。

これは、ロッシが在籍した2年間がちょうど800ccから1000ccにレギュレーションが変更する時と重なってしまった事も不運だったと言えると思う。2年間通して同じレギュレーションのマシン開発をすることが出来たら、もっと開発はスムーズに進んだのかもしれない。

今更過ぎた事を悔やんでも始まらないが、ホンダ、ヤマハで歴史に残る好成績を残したロッシでもドゥカティで結果を出せなかった事から、ドゥカは日本製マシンにそれほど慣れていない若手をドゥカスペシャリストに育成するという方針を打ち出し、Moto2クラスでロッシの後継者として期待を集めていたイアンノーネを起用したが、懸命な判断だと言えると思う。

イアンノーネが育つまでは、ホンダワークス経験者のドヴィとニッキー、そして何故かイアンノーネのチームメイトとしてジュニアチーム入りしたヤマハワークス経験者のスピースにドゥカが託される事になった。スピースの起用はニッキーの後継としてのワークス入りを想定してのテスト的な起用、もしくはドヴィが期待に応える成果を出せなかった場合の保険の意味もあるのではないかと思う。

いずれにしても、しばらくは日本製マシンの開発経験のあるライダーが継続してドゥカの開発を担って行く事には変わりがない。彼らがこのままアルミフレームの開発を継続することを選択するのか、それともカーボンモノコックに戻す事を選択するのかも含めて彼らの開発するマシンがどの様な方向に向かうのか興味を持って見守って行きたいと思うし、イアンノーネの成長を楽しみにしたいと思う。

また、ヤマハに復帰するロッシに関しては、大方の予想では年間1、2回は勝つかもしれないが、タイトル争いでロレンソやペドロサを脅かす所までは行かないだろうと思われている様だ。

僕としては、ロッシが再度タイトルを獲得出来るかどうかとなると、現在の最速マシンであるホンダのRC213Vの完成度の高さとペドロサとの組み合わせでの強さを考えると明言は出来ないが、少なくとも同じマシンに乗るロレンソとは互角以上の勝負は出来るのではないかと思っている。

何故なら、多くの人は2010年序盤、ロッシよりロレンソの方が優勢だった事を覚えていて、現在の実力ではロッシよりロレンソの方が上回っていると考えているのだと思うが、ロッシが大腿骨の骨折から復帰した後、むしろ大腿骨の骨折より以前より痛めていた肩の怪我の影響の方が大きかったとコメントしていた事を考えれば、2010年序盤の劣勢も肩の怪我の影響だった可能性が高いと思うからだ。

それにロッシは何としてもドゥカ時代の低迷の雪辱を果たしたいという強い決意を持ってチャレンジャーとしてヤマハに戻って来る。そういう高いモチべーションに燃えているロッシ程強い存在はないし、何より相性に問題がない事がはっきりしているヤマハに乗れば、本来のロッシの実力を遺憾なく発揮できる事は間違いない。

もっとも、2013年序盤は2年間もヤマハと大きく特性の違うマシンに乗っていた事から、かつての感覚を取り戻すのに多少の時間を要する可能性は高いし、そういう意味では今年のシーズン後のテストで雨に祟られて十分走り込みが出来なかった事も少なからぬ影響はあるかもしれない。

しかしシーズン後半になればかつての速さを取り戻すに違いないと思うし、2014年シーズンはタイトルを獲得するかどうかは別にして十分タイトル争いに加わり、レースファンを熱狂させる活躍をしてくれるに違いないと思う。

再来年の話をするのは、まだ早過ぎると思うが、とりあえず本来のロッシらしいライディングがまた観られる事になった2013年シーズンを大いに楽しみにしたい。

ペドロサのタイトル獲得を阻んだレース裁定

前項で述べたとおり、2012年シーズン開幕直前にタイヤ仕様変更の決定がされた時点で、ストーナーのタイトル獲得の可能性はかなり厳しいものになってしまったと言えると思う。

しかし、ホンダはタイトル獲得を諦めなかった。シーズン中盤に2013年から投入予定だったニュースペックのフロントタイヤに合わせて開発したニューマシンを実戦投入する決断を下したのだ。

タイトルを獲得する為には、ライダーが危険と言う程、ニュースペックタイヤと相性の悪いマシン特性を改善する必要があり、その為には付け焼刃の改良では無理で、マシンを一から開発し直さなければならない。それはタイトル獲得の為には必要な決断だったとは言え、この不況で天下のホンダもレース予算が削減されている厳しい状況下では、かなりの困難を伴う決断だったに違いないと思う。

それでも、そのニューマシンが初投入されたラグナセカで、ペドロサがフリー走行1とフリー走行2でいきなりトップタイムをマークする程の完成度の高さを示し、そのデビューレースではセッティングを詰め切れず優勝は逃したが3位表彰台を獲得し、続くインディアナポリスでは早くも優勝を果たし、ニューマシンは大きな成果を挙げた。

シーズン途中で全くのニューマシンが投入されて、いきなり成果を挙げる例というのはかなり稀であり、ホンダのタイトル獲得への執念と高い開発力を感じさせる結果となった。

その一方で、ニューフレームを改善効果がないと評価したストーナーはニュースペックエンジンと旧フレームの組み合わせを選択し、続くインディアナポリスでは、プレシーズンテストで新構造のタイヤに対し「却って危険」と評価した本人の言葉通り、転倒、骨折という最悪の状況に陥ってしまう。

僕はこのペドロサとストーナーのニューフレームに対する明暗の差もよく理解出来る気がする。

前項でも述べたとおり、ブリヂストンの柔構造と呼ばれる新構造を採用したニュースペックタイヤはミシュランが採用していた構造に似ているのだという。

ホンダにはかつてミシュランを採用していた当時のペドロサの走行データが豊富に残っていた訳で、そのデータを基にニュースペックタイヤの特性と相性の良いフレームを開発したのだろうと思う。

そして、当時のミシュランタイヤは、ロッシがいち早くブリヂストンへのスイッチを決めた様に、ブリヂストンに対して劣勢であり、特にホンダはヤマハ以上にミシュランタイヤとの相性に問題を抱え、激しいチャタリングに多くのホンダライダーが悩まされ低迷する中、ペドロサはかろうじてタイトル争いに名前を連ねる事は出来る所まで善戦しており、どちらかと言うとミシュランタイヤとの相性は悪くなかったライダーだと言える。

その為、当時のペドロサの走行データを基に開発されたニューマシンは、ミシュランに特性が似たニュースペックタイヤとペドロサのライディングスタイルにはベストマッチのマシンに仕上がったが、ペドロサとはかなりスタイルの違うストーナーのライディングスタイルには合わないフレーム特性に仕上がっていたのだろう。

だから、ストーナーは結局自分のライディングスタイルに合わせて開発された旧フレームの方を選択したのだと思う。

僕は以前からライダーとマシン特性の相性の重要性を主張しているが、この事でもそれが証明されたと思う。

誰もがストーナーとペドロサを比べたらストーナーの方が速いと思うだろう。しかし、それはストーナーがストーナーのライディングスタイルと相性の良いマシンに乗っていればという前提であり、ペドロサとの相性が良いマシンに乗れば、立場が逆転してしまう程、微妙なものでもあるのだ。

こうして、ニュースペックタイヤと自分のライディングスタイルにベストマッチしたマシンを手に入れたペドロサはかつてない程の強さを見せ、快進撃を開始する。

ストーナーに合わせて開発されたマシンと旧スペックタイヤの組み合わせで戦った前半戦では1勝しか挙げられなかったペドロサが、自分のスタイルと相性の良いマシンとニュースペックタイヤで戦った後半戦では6勝を挙げ、最終的には年間最多勝の7勝を挙げる程の強さを見せた。

それもニューマシンを投入して僅か2戦目のインディアナポリス以降は完走したレースでは全勝という圧倒的強さであり、もう少しで不利なレギュレーション上の決定という逆境を跳ね除けてホンダにタイトルをもたらすという劇的なストーリーを実現する所だった。

シーズンを振り返るとペドロサのタイトル獲得を阻んだ決定的なレースは、第13戦サンマリノGPだったと言えると思う。

このレースでは、スタートシグナル点灯直前、アブラハムのエンジンがストールし、アブラハムが手を挙げてアピールしたことからスタートが中断、仕切り直しとなった。

そして再スタートのサイティングラップが始まろうとした時、ペドロサのマシンのフロントブレーキがロックするというトラブルに襲われる。メカニックはマシンを交換するために一度ピットロードにマシンを入れるが、その時トラブルが解消した為、マシンはグリッドに戻されペドロサはグリッドからサイティングラップをスタートさせたが、一度ピットロードにマシンを入れた為、最後尾スタートのペナルティを課せられる事になる。

僕は再スタートの際、タイトル争いの真っ只中にあるペドロサが最後尾からスタートするのを見て、何が起こったのか分からず、まるで悪夢の様だと思ったが、本当の悪夢はその後に待っていた。

ペドロサは最後尾から得意のロケットスタートを決め、順調に前のマシンをパスして行った。レース後に、最後尾スタートでも優勝する自信があったと語った言葉は決して負け惜しみではなく、十分その可能があると感じさせる見事な追い上げを見せていた矢先、バルベラの転倒に巻き込まれて1周もする事無くペドロサはレースを終えてしまった。

その瞬間、誰もがペドロサのタイトル獲得の可能性は潰えたと思っただろう。そしてその通りになった。しかし、その後もペドロサはタイトル獲得を諦めずに、その事を忘れさせる程の快進撃を続け、奇跡の大逆転を予感させる所までロレンソを追い詰め、最終的にはフィリップアイランドで自ら転倒してタイトルを逃した。

その為、最終的には自滅してタイトルを失ったという印象が残ってしまった感があるが、並みのライダーだったら、サンマリノGPの後、そこまで盛り返す事さえ出来なかっただろうし、サンマリノGPでのノーポイントがなかったら、ペドロサもあそこまで追い詰められる事もなかっただろう。

それまでのレースではペドロサは余裕でロレンソを打ち負かして来ており、ロレンソに勝つためだけなら無理をする必要はなかった筈だ。あのレースで転倒する程攻めていたのは、最終戦を前に少しでも多くポイントを稼ぐ為に、どうしてもストーナーに勝ちたいと思っていたからだろう。

負傷欠場から復帰したばかりとは言え、地元フィリップアイランドでのストーナーの強さは神懸り的なレベルだ。通常なら地元でストーナーに勝てなくても無理はないと考えるところだろうが、ペドロサはどうしてもストーナーに勝ってロレンソとのポイント差を広げたいと気負ってしまったのだと思う。

もし、サンマリノGPでのノーポイントがなかったら、ロレンソとのポイント差もそこまで大きくはならず、ペドロサも冷静になって手堅く2位でオーストラリアGPを終える事を選択し、最終戦で逆転タイトルを獲得していた可能性は高かったと思う。

そして仮にフィリップアイランドで転倒してしまったとしても、サンマリノGPでポイントを獲得していれば、最終戦までタイトルの決着は持ち越されていた訳で、十分逆転タイトルの可能性はあったと思う。

結局、ペドロサがタイトルを獲得出来なかった最大の要因は、サンマリノGPでのレース裁定にあったと思う。確かにそれはルールブック通りの裁定であったかもしれない。しかし、ペドロサのマシンを襲ったトラブルは、アブラハムのエンジントラブルを原因としたスタート中断の影響で生じたものであり、自己責任とは言い難い。

そもそも、スタートが中断しなければ、ペドロサのマシンはトラブルには見舞われる事はなく、PPから普通にスタートしてトップを快走していた筈で、誰の転倒にも巻き込まれる事はなかっただろう。

対するアブラハムのマシントラブルは、午前のフリー走行から発生していたものらしく、そのトラブルを解消出来ないままマシンをグリッドに送り出したアブラハムのチームの自己責任に寄るものと言って良い。

例えルール通りとは言え、アブラハムの自己責任によるトラブルは救済され、その影響により発生したペドロサのトラブルは救済されなかったという事は、どうにも不公平に思えて納得しがたいものだ。

しかも、それがシーズンのタイトル争いを決定付ける結果に繋がったとなると尚更である。タイトル争いのさなかにあるライダーが自己責任とは言い難いトラブルでグリッド降格となると、レースの楽しみの半減するし、何よりそんな事でタイトルの行方が左右される事になれば、タイトル争いの当事者もレースファンも納得出来ないだろう。

この様なケースなら特別措置が取られたとしても、良いのではないかと思うし、本来なら特別措置などしなくてもこの様な事態が起こらない様なルールにしてもらいたいと思う。

通常のスタートの際は別として、再スタートの際は本当に悪質なルール違反等があった場合を除き、1回目のスターティンググリッド順から変更はしないと決めれば良いだけの話なので、是非ともルール改正をして欲しいと思う。

実際にタイトルを獲得したロレンソとヤマハには落ち度はないし、申し訳ないと思うが、やはり今年最速だったマシンはホンダのRC213Vだったと思うし、全員が旧スペックタイヤという同条件の下で1番速かったのはストーナー、新スペックタイヤで1番速かったのはペドロサだったと思う。

ロレンソはそのどちらでも安定して速かったのに対し、ホンダはシーズン前半はストーナーの方が速く、後半はペドロサの方が速く、ホンダ勢同士でポイントを奪い合ってしまった事もあり、ヤマハ勢で常に最速だったロレンソが優位だったが、その条件化でもペドロサが年間7勝の最多勝を挙げ、実質的に年間を通して2012年のチャンピオンに相応しい走りをしていたのは彼だったと思う。

特に後半戦に関しては観ていてロレンソがペドロサに勝てるというイメージは全然感じなかった。それでも安定して2位に入り続けた結果タイトルを獲得した事を考えると、現在のポイント配分はやや優勝の重みが軽んじられているのではないかと感じた程だ。優勝のポイントと2位のポイントはもっと格差があって然るべきかも知れない。

その様な実力通りのライダーがタイトルを獲得する事を妨げるような、レギュレーションやルールは是非改善して欲しいと願う。

2012年12月30日日曜日

ストーナーのラストイヤーを台無しにしたタイヤレギュレーション

またblogの更新が滞ってしまった。今年は色々MotoGPのあり方を考えさせられる問題が多く、書きたい事が沢山あったのだが、とりあえず今年が終わる前に、それらの事を駆け足で書き留めておきたい。

まず、今年のMotoGPで印象に残ったのは、幾つかの局面でレギュレーションがタイトル争いの行方を左右してしまったシーズンだという事だ。

その第一がシーズンが始まってから、今年度のタイヤ仕様を変更するという決定が成された事の影響である。僕は以前、タイヤワンメイクのレギュレーション変更による弊害を危惧するエントリーを書いた事があるが、その心配が正に的中してしまったと思う。

2012年シーズンは本来であれば、シーズン開幕早々に今シーズン限りでの引退を表明したケーシー・ストーナーが引退の花道を飾るシーズンになっていた筈だと思う。

実際、昨年ホンダに復帰した初年度に圧倒的強さでタイトルを獲得したストーナーは、その1年間を通してストーナーの走りに合わせて開発されたと考えて間違いないであろうニューマシンRC213Vでも、その好調を維持し、プレシーズンテストでは常に最速タイムを刻み、本人も「テストはもう飽きたから、早くレースをやろう。」とコメントする程盤石な状態だった。

あのまま何事もなくシーズンが開幕していたら、おそらくは昨年以上の圧倒的強さで3度目のタイトルを軽々と獲得して有終の美を飾っていたに違いないと思う。

しかし、異変はそのプレシーズンテストから始まっていた。ブリヂストンは現在の仕様のフロントタイヤが、暖まるのが遅くレース開始直後のグリップが低い為にレース序盤での転倒が多いという批判を受けて、2013年の導入を目指して、柔構造と呼ばれる新構造を採用したニュータイヤを開発し、プレシーズンテストで、そのニュータイヤをライダー達にテストして評価してもらった所、一部の僅かなライダーを除いて好評だった事から、2013年からの投入予定を前倒しし、今シーズンから投入する事を決定した。

これだけ聞けば、さほど問題には感じられないかもしれない。しかし、問題なのはその一部の僅かなライダーというのが、実はレプソルホンダのストーナーとペドロサの2人だった事だ。

僅かなライダーというのが、タイトル争いに関係のないランキング下位のライダーだったら、その様なライダーの主張が無視されたとしても仕方ないと言えるかもしれない。

だが、タイトル争いの主役であるディフェンディングチャンピオンを含む、チャンピオンチームに所属する二人のライダーが揃って「却って危険」と採用に反対したタイヤの採用があっさりと決定してしまった事には正直驚きを禁じ得なかった。

現在タイトルを争える実力と環境を備えたライダーと言えば、ストーナー、ロレンソ、ペドロサの3強と言って良いだろう。

その3強の内、2人にとって不利な決定がイコールコンディションの大義名分の元に成されてしまい。残る一人、ロレンソにとって圧倒的に有利な状況がその時点で構築されてしまったのである。

ホンダ以外のメーカーにとっては願ってもない決定であるが、ホンダにとってはとんでもない決定である。当然のごとくホンダは猛反発し抗議したが、その抗議も僅かにシーズン中盤までは旧スペックタイヤも使用出来るという僅かな譲歩を引き出す事しか出来なかった。

2012年仕様のタイヤに合わせてマシンを開発したのに、そのタイヤを突然全く特性の異なるタイヤに変更される。それはマシン開発を一からやり直す必要が生じるという事であり、ホンダの憤りは良く理解出来る。

たまたま、ホンダ以外のメーカーはニュースペックタイヤとも相性が良かったから反対しなかっただけであり、むしろホンダが不利になる分有難いという事もあったのかもしれないが、本当にそれで良いのかと思う。

ホンダが1番タイヤ変更の影響を受けたという事は、ホンダが1番本来の2012年仕様のタイヤと相性の良いマシン開発に成功していたという事で、最も良い開発をしたメーカーが不利になる様な変更を認める事が今後の事を考えると本当に良い事とは思えない。他のメーカーもいつかホンダの様な立場になってしまう可能性もある訳で、ホンダ以外のメーカーがこの突然の変更を受け入れたり、ホンダの抗議に対して賛同しなかったのは、本当に懸命な判断だったと言えるだろうか?

僕はホンダのワークスマシンだけが、ニュースペックタイヤと相性が悪かった理由は良く分かる様な気がする。

実は今回ブリヂストンが採用した柔構造という新しい構造は、ミシュランのフロントタイヤが採用していた構造に近いのだそうだ。

ストーナーはLCRホンダ時代、そのミシュランのフロントタイヤと相性が悪く、フロントからの転倒を繰り返し、ミシュランよりフロントタイヤのグリップ力が勝るブリヂストンを採用していたドゥカティへ移籍した事で安定した走りが出来る様になり、初タイトルを獲得した。

ホンダの2012年型のRC213Vはそのストーナーの走りの特性を最大限に生かせる様に開発されたマシンの筈だ。つまり、ブリヂストンの高いグリップ力を誇るフロントタイヤの特性に合わせたマシン造りをしたに違いない。

その結果、ストーナー自身元々柔構造を採用していたミシュランタイヤと相性が悪かった為に、そのミシュランと同じ柔構造を採用した新スペックタイヤと相性が悪いのは当然として、そのストーナーと旧構造のフロントタイヤにベストマッチする特性に仕上がっていたRC213Vとも相性が悪かったのだと思う。

ストーナーの初タイトルは同時にブリヂストンに取っても初タイトルだった。ブリヂストンにとってはストーナーは初タイトルをもたらしてくれた恩人と言って良いと思う。そして、当然ながらストーナーが柔構造のフロントタイヤとは相性が悪い事も良く知っていたに違いない。

そのブリヂストンが有終の美を飾るべきシーズンに挑むストーナーにとって相性の悪いタイヤと知りながら、その投入を1年前倒しにする決定をした事は理解に苦しむ。

もし、逆にストーナーとの相性の悪いタイヤの投入を、ストーナーの為に予定より1年遅らせたというのなら贔屓と批判されるかもしれない。しかし、本来2013年から投入予定だったタイヤを1年前倒しするかどうかの選択に際し、今年限りで引退するストーナーとの相性を考慮して、1年前倒しするのをやめて当初の予定通りにしたというだけなら、特に批判される様な事ではない筈だ。

僕がこの決定に批判的なのは、その決定が公平とは思えない事、引退の花道を飾れる筈だったストーナーに同情するからだけではない。一レースファンとして、シーズン開幕直前にタイトル争いを左右する様な決定がなされた事は許し難い事だと思うからだ。

最初に書いた様に2012年シーズン、タイトルを争える可能性のあったライダーはストーナー、ロレンソ、ペドロサの3人だけだった。その内2人のライダーに取って不利な決定がシーズン開幕直前になされるというのは、残りの一人ロレンソに取って圧倒的に有利な決定であり、この決定によって2012年のチャンピオンがほぼ決まってしまった様なものだからだ。果たしてその様な決定が本当に許されていいものだろうか?

シーズン前半こそ、旧スペックタイヤの使用も許されたが、他のライダーは暖まるのが早く直ぐに充分なグリップ力を発揮するタイヤを履いており、レース序盤から飛ばして行く事が出来るのに対し、暖まるのに時間がかかる旧スペックタイヤを使わざるを得ないストーナーとペドロサは、レース序盤はペースを上げる事が難しく、しかも他のライダーに負けまいと頑張ればグリップ力が充分でないタイヤで転倒するリスクを抱えてのレースとなる訳で、不利である事には変わりがない。

それでもシーズン序盤、ホンダ勢はストーナーが3勝、ペドロサが1勝を挙げ、ロレンソの4勝に対しメーカー勝負では5分に持ち込む頑張りを見せた。

しかし、旧スペックタイヤが使えなくなったシーズン後半。ニュースペックタイヤに合わせた2013年使用のニューマシンを投入したホンダはペドロサがニューフレームと高い順応性を見せたのに対し、ストーナーは旧フレームの継続使用を決断。その苦しい状況の中、得意のラグナセカでは優勝してみせたが、相性の悪いタイヤでの無理が祟り続くインディアナポリスではフリー走行で転倒して骨折してしまい、その後の数戦を欠場する事になり最後のシーズンでのタイトル獲得の望みは絶たれる事になった。

ストーナーにとっての2012年シーズンは、フロントタイヤとの相性が悪く、転倒に泣いたLCRホンダ時代を彷彿させるシーズンだったと言えると思う。ストーナーは最近のインタビューで最も好きだったマシンとしてLCRホンダ時代のRC211Vを上げており「サテライトマシンでタイトル争いなんてできないと嘆く向きが多いけど、マシンだけの話じゃない…絶対にあのマシンでも取れるものだと思ってますよ。」と語っている。

つまり、あの時ストーナーはタイトル獲得の為に当時のベストマシンよりブリヂストンタイヤを選んだという事であり、タイヤさえ相性の良いものであれば、マシンがベストでなくてもタイトルが獲れる事を証明し、ブリヂストンのワンメイクになってからホンダに復帰して、ようやくマシン、タイヤ共にベストのパッケージを手に入れたと思ったら、今度はタイヤの仕様変更でタイトル獲得を阻まれたというのは、なんとも因縁深い話だと思う。

結果として、2012年のタイトルはロレンソが獲得した。しかし、プレシーズンテストの段階では、誰もがストーナーが3度目のタイトルを楽々を獲得すると信じて疑わなかっただろうし、シーズンが終了した今も、多くのファンが2012年1番速かったライダーはストーナーで、ストーナーが最速ライダーのまま引退したと記憶に留めるに違いないと思う。

不公平なレギュレーション上の決定で、このレース史に残る偉大な天才ライダーがラストシーズンをタイトル獲得で飾る事が出来なかったのは非常に残念であるし、レース史に残る汚点ではないかと思う。

この事は、現在のレギュレーション上では、タイヤメーカーの思惑ひとつでチャンピオンライダーを決めてしまう事も可能だという事を示しており、ブリヂストンもしくはドルナにその意志がなかったのだとしても、結果的にその様な事が起きてしまった事は重く受け止めるべきだと思う。

また、もし複数のタイヤメーカーが参戦していれば、かつてのストーナーの様により自分と相性の良いタイヤメーカーを選択するという事も可能なのだが、ワンメイクのままだと仮に今のブリヂストンタイヤと相性の悪いライダーが、本当は相性の良いタイヤさえ使えればタイトルを獲得出来る実力を持っていたとしても、その実力を発揮出来ないままレース人生を終えてしまう可能性もある訳である。

そういう状況を改善する為にも、かつての様に複数のタイヤメーカーが参戦し、レースが健全な競争の場になる事を切望して止まない。







2012年6月17日日曜日

マルケスとエスパルガロのアクシデントについて

本当はいよいよ噴出して来たタイヤワンメイクの問題について書こうと思っていたのだが、カタルニアGPのMoto2クラスで起きたマルケスとエスパルガロのアクシデントが意外な程話題になっているので、今回はその事について書いておきたい。

先ず、この二人の接触は単純なレーシングアクシデントであり、双方に非がないのは火を見るより明らかだ。そもそもペナルティが課せられる様な事象ではないし、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)の審査委員会がそのペナルティをキャンセルしたのは当然の結果と言える。それをチーム・ポンスがFIMのCDI(国際規律法廷)に控訴するという異常な事態になっている。


ポンス・40・HP・トゥエンティ、ペナルティキャンセルの裁定に対して控訴

では、アクシデントの詳細を振り返ってみたい。残り3周の10コーナーで3位走行中のマルケスが立ち上がりで少しアクセルを開け過ぎたのか一瞬リアが流れ出しハイサイドを起こしかける。

ハイサイドというのは、リアタイヤがスライドし過ぎた時、ライダーがスライドを抑えようとしてアクセルを戻した時、その戻す量が大き過ぎリアタイヤのグリップが急激に復活した時に発生する。

レーシングタイヤのグリップ力は強力であり、サーキットの路面のグリップ力も一般道とは比べ物にならない位高い。その強力なグリップ力は急激にマシンを起き上がらせようとする方向に作用する。その力は、時にはバイク毎ライダーをアウト側に放り出してしまう程強力なものだ。

マルケスは素早く対応して、ハイサイドを押さえ込み転倒は免れるが、その結果としてバランスを崩したマシンはコーナーのイン側に切れ込んで行く。そしてイン側を走行していたエスパルガロと接触し、エスパルガロは転倒。そして、もしイン側にエスパルガロがいなかったらマルケスはおそらくコースアウトしていたと思われるが、エスパルガロのマシンがクッションになりコース側に押し戻してくれる形になった為にコースアウトを免れ走行を続行する事となり3位でフィニッシュした。

マルケスはハイサイドにより転倒しかけるというビッグ・アクシデントに見舞われた直後であり、バランスを崩しているマシンをコントールしきれていなかった。角度的に後方にいたエスパルガロは接触直前まで見えていなかった筈であり、エスパルガロに気付いてからでは何かをする時間的猶予はなく、彼に接触を回避する事は不可能だったのは明らかである。

マルケスに何かミスがあったかと言えば、バトル中にミスをして転倒しかけたというだけであり、それはレーシングアクシデントであって責められる事ではない。

対するエスパルガロは、マルケスの後方にいて一部始終を見る事が可能だったのだから、この接触を避けられる可能性があったのは彼だけだと言える。しかし、突然の事に何の対処も出来ず気がついた時にはマルケスのマシンがどんどん近づいて来て、何とか接触を避けようと減速しながらイン側に避けようとしている様に見えるが、イン側に切れ込んで来ているマシンをイン側に避ける事が出来る筈も無く、なす術も無く接触してしまったという形だ。

もし転倒を避けられたとすれば、マルケスが転倒しかかった瞬間にアクセルを緩め、マルケスのマシンがその後どの様な挙動を示すか注視し、イン側に切れ込んで行く兆候が見えたら素早くアウト側に回避する行動を取っていたら避けられたかも知れない。しかし、まだ経験が浅いエスパルガロにあの瞬間にそれだけの冷静な判断と行動が取れなかったとしても無理はないだろう。

従って、この接触に関しては双方に非は認められない。単に転倒しかけてバランスを崩したマルケスをエスパルガロが避け切れなかったというだけである。

しかし、このアクシデントに関し、転倒しかけたマシンがイン側に戻って来る事は通常あり得ないので意図的にマルケスがエスパルガロに抜かれまいとしてイン側にマシンを寄せたと思い込んでいる人も多い様なので、ハイサイドを起こしたマシンが転倒を免れた後イン側に切れ込んで行く事は充分あり得るという事を説明しておきたい。

先ずはコーナリングの原理を説明すると、マシンにはコーナリング中遠心力が作用し、遠心力はマシンをコースのアウト側に押し出そうとして作用している。それをライダーは遠心力に逆らいマシンをイン側に倒し込む事で、マシンをバランスさせてコーナーを旋回している。

つまり、コーナリング中マシンは、遠心力とイン側にマシンを倒そうとする力が鬩ぎ合っているという状態にあり、そのバランスが崩れるとアウト側に膨らんで行くか、イン側に切れ込んで行く事になるのである。

マルケスのマシンもリアスライドを始めた瞬間からマシンはアウト側に流れ始めている。リアスライドが突然だったからなのだろう、マルケスは右足がステップから外れる程体制を崩している。

この写真はTVのキャプチャ画像だが、リアがアウト側に流れ始めているのと、マルケスの外足がステップから外れているのが分かる。

この時反射的にアクセルを緩めたのだろうリアタイヤのグリップ力が復活しマシンハイサイドを起こしマシンは起き上がりかけるが、マルケスは素早くマシンを押さえ込む事に成功している。

この写真と上の写真を見比べると、瞬間的にいかに大きくマシンが起き上がっているか分かるだろう。スライドを始めた段階ではルティとはテールトゥノーズの距離だったが、既にここまで距離が開いている。マルケスがアクセルを戻してハイサイドを誘発した事が分かる。

この辺りのハイサイドを押さえ込んだマルケスの対応の素早さは見事だと言えるが、あるいはリアスライドを起こした瞬間外足が外れた事で、マルケスの体はイン側にずり落ちかける様な体制になっており、その為意図せずイン側に体重がかかる様になっていたのが功を奏したと言えるかも知れない。

どういう事かというと、あれだけマシンがバンクしている状態で外足が外れたら、マルケスはバイクからずり落ちてしまったとしてもおかしくない。そんな時とっさにどうするだろうか?ずり落ちまいとするだろう。外足はステップから外れているので役には立たない。頼りになるのはハンドルを握っている手だけだ。マルケスはずり落ちまいと無意識の内にハンドルに力をかけ、つまりハンドルには車体を下に押し下げようとする力がかかった筈だ。

通常であれば、そんな事をすればマシンは簡単に転倒してしまっただろう。しかし、ハイサイドのマシンを引き起こそうとする力がそれを上回る大きさで作用し、逆にマシンを2枚目の写真の角度まで起き上がらせた。逆に言えばマルケスがずり落ちまいとハンドルに力を入れていなければ、マシンはもっと勢い良く起き上がり、マルケスはアウト側に放り出される形で転倒していたかも知れない。

そして、マシンの起き上がる力によって、ずり落ちるどころかマシンから浮き上がる様になったマルケスの体は、ハイサイドが収まると今度はマシンの上に落下する事になる。そして、その瞬間からマシンはイン側に切れ込んで行く。

マルケスの体重がそれまでよりマシンに荷重されるという事は、マシンをイン側に倒し込む力がその分増す事を意味するからだ。

この連続写真を見ると上の写真ではマルケスのお尻がシートから浮いているのが分かるだろうか?分かり難ければ膝の角度に注目して欲しい。上の写真では膝が伸び気味であるのが分かる筈だ。下の写真ではマルケスの体は通常のポジションに戻っている。この瞬間マシンから浮いていてマシンに荷重が余りかかっていなかったマルケスの体重がしっかりと荷重となってマシンにかかる事になる。そしてその瞬間からマルケスのマシンはイン側に切れ込んで行く。

これは先ほどの遠心力とマシンを倒す力のバランスを思い出せば何が起こったかが分かると思う。ハイサイドによる転倒が回避されたという事は、ハイサイドがマシンをアウト側にはじき飛ばそうとする強大な力に勝る程、イン側にマシンを倒そうとする力が作用した事を意味する。

更に一瞬ハイサイドの力によって浮き上がりマシンから荷重が抜けたマルケスの体重が再びマシンに荷重され、マシンにはよりイン側に倒し込む力が力がかかったのである。

つまり、過剰にイン側に倒し込む力がかかった為にマシンはイン側に切れ込んで行く事になった訳である。

しかも、マルケスはリアタイヤがスライドを始めた時にアクセルを戻している。アクセルを戻したからハイサイドを誘発したのであるからこれは間違いない。

要するにアクシデントが発生した事による一連の流れの結果として、あのコーナーを普通に曲がるのに比べて、アクセルを戻し過ぎ(減速し過ぎ)、マシンを倒し込み過ぎの状態になったという事である。それではマシンはイン側に切れ込んで当たり前だというのが理解出来るだろう。

それでも納得いかないという方がいれば、TV中継の録画もしくはMotoGP公式サイトのビデオ(有料)で、接触する前の空撮映像のリプレイでマルケスとエスパルガロの走行ラインを良く観て欲しい。キャプチャ画像では前後のラインが分かり難いので走行ラインを書き加えてみたが、マルケスからエスパルガロを確認出来ない時点からマルケスはイン側にコースアウトするラインに乗っていて、エスパルガロと接触するまでそのラインを修正しようとする動作を見せていない。

接触前の空撮映像。分かり易い様に両者の走行ラインの軌跡とそれを延長したラインを引いてある。エスパルガロが完全に後にいてマルケスから見えていなかった段階からマルケスのマシンはコースの内側にコースアウトするラインに乗っているのが分かる。

これはマルケスが、普通にコーナリングしてコーナーを抜けられるラインを走っていない事を意味し、アクシデントの結果としてマシンのコントロールを失い、それを取り戻していない事を意味する。

通常のレース映像を見てみよう。この時点ではエスパルガロはイン側を見ていて、マルケスの方を見ていない。次の瞬間、マルケスがイン側に寄って来ているのに気付いてマシンを起こし気味にし、頭を上げている。しかし、マルケスの体制は全く変化せず後ろを振り返ろうとするそぶりもない。ずっと進行方向だけを見ている

おそらくはエスパルガロがマルケスに気付く前と気付いた後の連続写真。ヘルメットの中のエスパルガロの視線がどこを見ているか想像出来るだろう。その瞬間のエスパルガロの動揺がマシンの姿勢の変化に見て取れる。対するマルケスはただ前だけを見てラインをトレースしているだけで、マシンに何の挙動も与えていない。ラインを変更しようという動作をしていないのが分かるだろうか。
1枚目の写真でエスパルガロにマルケスが見えていないのだとすれば、マルケスにエスパルガロを見る事等絶対に不可能なのも分かる筈だ。

では、イン側に切れ込んで行くマシンを何故マルケスはライン修正しようとしなかったのだろうか?

これについては、それが出来なかったか、それとも敢えてしなかったのか、二つの可能性があり断定は出来ない。

先ず、出来なかったという可能性だが、ハイサイドを起こしかけるというのはビッグアクシデントだ。マルケスはかろうじて転倒を免れたが、もう少しでマシンから振り落とされる所だった。それをかろうじて押さえ込む事に成功し、必死でマシンにしがみ付いている所で、気が動転して何も出来ない状態だったという事は想像に難くない。

僕は10代の頃、友達と原付で地元のグランドに侵入して、ダートトラックレースごっこをして遊んだ事があるが、その時にハイサイドを経験した事がある。原付でスピードもせいぜい30〜40km前後しか出てなかったと思うが、それでも走行中のバイクが突然猛烈な力で起き上がり、バイクから放り出される様に転倒するというのは衝撃的な出来事だった。幸い怪我はなかったが、暫くは気が動転して落ち着くまでに結構な時間を要したのを鮮明に覚えている。

原付でもあれだけ恐ろしかったのである。600ccのレーシングマシンで、レーシングスピードで走行中にハイサイドに見舞われるというのが、どれほどの衝撃で、どれほどの恐怖を味わうものか想像して欲しい。

勿論精神的な動揺だけではない。昔、どのレースでライダーが誰だったか忘れてしまったが、多分250ccクラスのレースで、レース中にハイサイドを起こしかけ、それを押さえ込んで走り続けてフィニッシュ出来たライダーが、レース後、ハイサイドを起こしかけた時の衝撃で肋骨を骨折していた事が判明したという事があった事を覚えている。

当時、例え250ccでもレーシングマシンのパワーというのは侮れないものがあり、そのマシンでハイサイドを起こした時の衝撃がいかにすざましいものかと認識を新たにさせられたので、強く印象に残ってる。

想像して欲しい。600ccのレーシングマシンでレーシングスピードで走行中、先ずマシンからずり落ちそうになり、次の瞬間マシンが急激に起き上がり、次の瞬間には体がマシンから浮き上がって、今度はマシンの上に叩き付けられる様に落下したのである。

マルケスの体には瞬間的にそれも下、上、下と、断続的に反対の方向に相当大きなGがかかった筈である。特にずり落ちそうになった時にハイサイドによるマシンが起き上がる力がかかった時には、相対的にかなり大きな力がかかった筈だ。相当な衝撃だっただろう。その時、手首や肩にも大きな衝撃があったのではないかと考えられる。また、一連の動きの中でマシンのタンク等に胸や肘等を強打した可能性も高い。

だから、精神的動揺だけでなく、マルケスが肉体的ダメージを受けていた可能性もあり、アクシデントの直後で何も出来なかったというのは充分にあり得る事だと思う。

もうひとつ、敢えて何もしなかったという可能性だが、通常のコーナリングのアプローチミスであっても、コーナリング中に修正するのは容易ではない。ましてやコーナリング中にハイサイドを起こしかけて、その結果バランスを崩してイン側に切れ込んで行っているという状況で、リカバリしようとしてもそうそう出来るものではない。

無理に何かをしようとしても、却ってバランスを崩して転倒に繋がっていた可能性が極めて高い状況だったと言えるだろう。

そういうケースでは多くのライダーが何もせず、一旦コースアウトしてから充分速度を落として体制を立て直してコースに復帰するという事を選択する事は良くある。

今回の場合も、状況的にはそうするのがベストな状況だったと言えるだろう。マルケスがそう判断してベストな選択をしたのか、それとも実際には何も出来なかったのだが、結果的にそれがベストの選択になっていたのかは分からない。

でも、今回の一件を見る限り、アクシデントがあったにも関わらず結果としては転倒を免れただけでなく3位表彰台を獲得しているのは、たまたまエスパルガロがイン側でクッションになってくれた幸運も含めて、やはり何かを持っているライダーなのかなという印象を受ける。

これで、ハイサイドを起こしかけたマシンがイン側に切れ込んで行った理屈は分かったと思うが、では、ハイサイドを起こしかけたマシンは、転倒を免れた後必ずイン側に切れ込んで行くものなのだろうか?それはそうとは限らない。

ライダーがハイサイドを起こしかけたマシンを抑え込んだ時、ハイサイドを回避するだけの必要充分な力だけを的確にイン側にかけられるという事は先ずあり得ない。通常はハイサイドを回避しようとするあまり過剰に力をかけてしまう筈だ。その場合、ハイサイドによるアウト側への転倒は避けられても結局イン側に転倒してしまうという可能性も充分あり得る。

だが、ライダーによってはそれを察知してハイサイドを回避した次の瞬間マシンを引き起こす力を加える場合もある。ハイサイドに対応するだけでもかなりの対応力だが、更に瞬時に倒し込み過ぎと判断しマシンを引き起こす所まで対応するというのは、本当に世界選手権に参戦する様なトップライダーでなければ出来ない離れ業だと思うが、そういう例も意外と目にする機会は少なくない。

その場合は当然マシンはアウト側に膨らんで行く事になる。そしてそのような場合は一瞬の間にアウト、イン、アウトと大きな力が連続してかかった結果として、マシンにウォブル(振動)が発生する事が多い。ハイサイドを起こしかけたマシンが激しく振られながらアウトに孕んで行って、コースアウトしたりその後転倒してしまう事も時々目にする事があると思う。

その時発生しているウォブルにもちゃんと発生する原因があるのである。同じ様にハイサイドを起こしかけて立ち直ったマシンでも、ウォブルが発生する場合と発生しない場合があり、アウト側に孕んで行く場合とイン側に切れ込んで行く場合がある。そして注意深く観ていればアウト側に孕んで行くときはウォブルが発生している場合が多く、逆にイン側に切れ込んで行く場合はウォブルが発生しているケースは少ない筈だ。

そんな所にも注目してレースを観ていれば、よりレースを楽しめる様になるのではないかと思う。

さて、この様に今回のアクシデントは明らかにレーシングアクシデントであり、どちらのライダーにも非はないと言える。少なくともエスパルガロと接触するまで一度も後を見ていないマルケスに、その責任が問える筈もない。もし、どちらかのライダーにこのアクシデントを回避する事が可能だったかと言えば、それはエスパルガロでありマルケスには不可能だ。だからと言ってエスパルガロにも勿論非はなく、やや未熟だったとは言えるが、回避出来なくてもやむを得ないと言えるだろう。

では、どうしてドルナは一度はマルケスにペナルティを与える決定をしたのだろうか?

ここからは単なる僕の憶測だが、それはドルナが将来MotoGPを支えるスターに成長する事を願っているマルケスに、ダークヒーローにはなって欲しくないと考えているからではないだろうかと思う。

Moto2クラスの競争は激しく、度々接触転倒等のアクシデントが発生する。それはMoto2クラスのライダーがアグレッシブなライダーが多い事も原因になっているが、マルケスもそのアグレッシブなライダーの一人であり、度々そのアクシデントの当事者となっている。

ドルナは例えマルケスに非は無くても、マルケスがその当事者となりアンチマルケスファンからのバッシングの対象になる事を好ましく思っておらず、マルケスにあまりアグレッシブになり過ぎず、そういうアクシデントに巻き込まれない様慎重になって欲しいと考えているのではないか?

もし、マルケスに非があればペナルティを課す事でマルケスも反省するかも知れない。しかし、そうではないのでペナルティは課せられない。当然マルケスは反省する事なく、アグレッシブなレースを続ける。そしてアグレッシブなレースを繰り返す事で、またアクシデントの当事者になってしまう。

だから、カタールGPの時にはアクシデントを呼び込む様なアグレッシブなレースを慎む様マルケスに警告したのではないだろうか?それはあるいは、「次、アクシデントを起こしたら、例え君に非が無くてもペナルティを課すぞ。だから慎重なレースをしろ。」という様な意味を込めての事だったかも知れない。

いずれにしても、今回はもうマルケスをおとなしくさせるには実際にペナルティを課すしかないと思ったのではないかと思う。例え非が無くても理不尽なペナルティを課せられるとなれば、流石に少しは慎重になってくれると思ったのではないだろうか?

また、もうひとつの問題はエスパルガロがノーポイントに終わってしまった事だ。マルケスに非がなかったとしても、マルケスのアクシデントに巻き込まれる形でエスパルガロはノーポイントになってしまった。エスパルガロのファンからすれば、アクシデントの原因を作ったマルケスが3位のポイントを獲得し、それに巻き込まれたエスパルガロがノーポイントに終わったのはやり切れない思いだろう。

それはマルケスへのバッシングへと容易に繋がるだろうし、ますますアンチマルケスファンを増やす事になるかも知れない。

とにかくマルケスのイメージを大事にしたいドルナとしては、マルケスもノーポントにする事で痛み分けとして、少しでもエスパルガロファン、アンチマルケスファンの溜飲を下げたいと思ったのではないだろうか。

とにかく、今回のドルナの判断は大切なスターであるマルケスのイメージをダーティなものではなくクリーンなものにしたいという興行面の思惑が大きく作用していたのではないかと思える。

しかし、そのペナリティはFIMの審議委員会によりあっさり却下された。当たり前の事だ。この様な明らかなレーシングアクシデントがペナルティの対象になる様では、もうレースは成立しなくなってしまう。

そして、レースのジャッジが興行的な思惑によって左右される様な事はあってはならない。

ただし、マルケスにおとなしくなって欲しいというドルナの気持も分からなくもないが、その為にはもっと別の方法を取るべきだろう。

僕は今回のアクシデントの経験を通してマルケス、エスパルガロの両選手が、より慎重で安全なレースが出来るライダーに成長して欲しいと願って止まない。

アクシデント直後マルケスを批判していたエスパルガロは時間を置いて冷静になり反省したのだろう、非常に良いコメントを出しいる。彼がこの経験で人間的に大きく成長を見せた事は素晴らしいと思う。そして、その結果としてライダーとしても大きく成長して強いライダーになり良いレースを見せてくれる事を確信し期待したい。


2012年6月4日月曜日

ドゥカティ GP12の現行エンジンはスクリーマーなのか?

2011年の年間を通して、ドゥカティに何度もフレームを造り直させ、ついに日本車的なオーソドックスなアルミツインスパーフレームを投入させたロッシの2012年シーズンは順調にスタートするかに見えた。

事実、セパンで行われた1回目のプレシーズンテストでは、昨年のポストシーズンに登場した通称GP Zeroから更にフレームを一新し、完全なニューマシンとなったGP12が持ち込まれ、初日こそロッシは好タイムを記録し、シェイクダウンしたばかりのマシンとしては非常に好調だと上機嫌だったが、テストが進み回りのライダーがタイムアップする中ロッシは低迷。僚友のニッキーはおろか、サテライト仕様のGP Zeroに乗るバルベラの後塵を排する事も多くなり、出口が見えないままプレシーズンテストのスケジュールが終了し、迎えた開幕戦カタールGPでは予選12位から決勝10位。レース修了後にはSBK転向を口にする程自暴自棄になっていたという。

続く第2戦スペインGPでは、予選ではMotoGPマシン最下位というだけでなくCRTマシンに乗るド・ピュニエにも抜かれ13位、決勝は9位に終わり、最悪の結果となった予選終了時にはとうとうロッシは「僕にはGP12が理解出来ない」という言葉まで口にする事態となった。

V.ロッシ『僕にはGP12が理解できない…』 - La ChiricoのイタたわGP

続くポルトガルGPでは、予選9位に終わった後、ついに僚友ニッキーのセッティングを参考にするというドクターの異名を持つロッシとしては屈辱的とも思える決断により、ようやく出口を見い出し、決勝7位と僅かながらリザルトを改善する事に成功し、迎えたフランスGPでは開幕以来待望していたウェットレースで、ケーシーと競り合ってみせただけでなく、ケーシーを打ち破って今季初表彰台の2位を獲得した。

今年に入ってからのドライでの目を覆いたくなる様なロッシの成績の低迷振りと、ウェットレースになったとたんドゥカティ移籍後2度目の表彰台、それも移籍後最高位の2位獲得との間のギャップの余りの大きさには驚かされる。いったいGP12に何が起こっているのだろうか?

ひとつにはウェットレースでは、ラップタイム自体がドライレースよりかなり下がる為に、フレームに対しての要求度も下がるという事が言えるだろう。トップスピードも高くないので、フレームにかかるGもドライ程ではなく、ブレーキングもドライ程ハードにかける必要がないので、コーナー進入時のフレームへの負担も小さくて済むだろう。

ロッシが悩まされているドゥカティのフレームの問題点も、ドライレースでのハイレベルなレースで限界点近くまで攻める事で露呈して来るものであり、レースのペース自体が低いウェットレースでは限界点まで攻める事もない為、フレームにも余裕があり問題点が露呈しにくいという事が言えるだろう。

それは逆に言えば、限界点付近ではドゥカティに対して優位性を持っているヤマハやホンダのフレームも、その利点を生かす所までペースが上がらないのでそれほど優位性を示すチャンスがないと言い換える事が出来るだろう。

実際、レースではロッシが久々にケーシー相手にバトルを見せたと言っても、あのロッシが立ち上がりで大きく膨らみ、クロスラインでケーシーに抜き返されるというシーンが何度も繰り返され、ロッシが本来の走りを取り戻したという訳ではないのは明らかだった。

ロッシの武器はハードブレーキングであり、それを利用してコーナー奥まで突っ込み、ライバルをパッシングするというのが、レースでのロッシの最大の見せ場であり、ロッシのライディングの最大の魅力でもある。

ただし、ロッシと並の突っ込み重視のライダーとの最大の違いはそれからであると言える。ブレーキングを遅らせて先行車をパスする。それだけなら、最高峰クラスのMotoGPに参戦するライダーのレベルならさほど難しい事ではない。しかし、コーナー前半で無理をすればコーナー後半にそのツケが回って来るのは当然であり、立ち上がりでコーナーを回り切れずアウト側に膨らんでいってしまい、折角パスしたライダーにクロスラインで抜き返されてしまうというのは良く見られるシーンである。

ヤマハ時代のロッシは違った。誰よりも奥深くまで突っ込んだとしても、立ち上がりでアウトに膨らむという事等なく、タイトなラインをキープして鋭くコーナーを立ち上がって行くのがロッシのライディングの真骨頂であり、コーナー進入で相手をパスをしてもコーナー立ち上がりのクロスラインで抜き返されるという事がほとんどないというのがロッシの強みであり、ロッシのライディングの芸術的な美しさの所以であると言えると思う。

そのロッシが立ち上がりで大きく膨らんでいきケーシーに抜き返されるシーンが何度も繰り返し見られたのは、ロッシがウェットでも本来の理想的なライディングを出来る状態ではないという事を示していて、ウェットになってドゥカティのパフォーマンスが改善されると言っても、決してフレーム特性が大きく改善される訳ではないという事を示していると言えるだろう。

では、ウェットでドゥカティが速く走れる最大の要因は何なのであろうか?実は当初ウェットでドゥカティが速く走れるのは何故か分からないとコメントしていたロッシも、フランスGP後、気を良くしたのかその理由の一端をエンジンパワーを落とす事が出来るからではないかと明かしている。

V.ロッシ:ロッシ終焉説を見返しましたね? - La ChiricoのイタたわGP

また、ロッシは低迷から抜け出せず喘いでいた時期のインタビューでドゥカティの問題点をエンジンが乱暴過ぎるからだと語っていたのだ。

V.ロッシ:ドゥカティに不満ぶちまけ独占インタビュー【前編】 - La ChiricoのイタたわGP

そして、実はフランスGPの前戦ポルトガルGPの事後テストで、ドゥカティは新しい仕様のエンジンのテストを予定していた。

F.プレツィオージ『エンジン3基目はシルバーストーン、4基目はラグーナセーカ』 - La ChiricoのイタたわGP

残念ながらこのテストは悪天候の為に延期となり、新仕様のエンジンのテストは先送りになった。しかし、その直後のフランスGPでロッシは2位表彰台を獲得し、その理由をロッシがエンジン特性にあると感じたという事は、やはりドライでのドゥカティの低迷の1番の理由は現行エンジンのエンジン特性にあると言えるのではないだろうか?

その事を考えた時、僕の頭の中にはひょっとしてGP12の現行エンジンはスクリーマーではないのか?という疑問が生じた。

しかし、ドゥカティのエンジンは800cc時代から既にビッグバンだった筈だ。そして昨年GP12の先行開発モデルをロッシが初テストした時のニュースではエンジンはビッグバンだと明記されている。

motogp.com ・V.ロッシ、デスモセディチGP12を初ライド

しかし、現行のGP12のエンジン形式に関しては特に明確な情報は得られなかった。

スクリーマーとは等間隔爆発の点火タイミングのエンジンの事で、ビッグバンとは位相同爆の点火タイミングを持つエンジンの事である。元々は2サイクルのNSR500の時代にホンダが有効性を確認したテクノロジーで、エンジンの出力特性がマイルドになり扱い易い特性になると言われている。

4サイクル時代になってもその有効性は確認され、ホンダは990ccのRC211Vから現在のRC213Vに至るまで一貫してビッグバンエンジンを採用していると思われる。

位相同爆はV型エンジンで開発されたテクノロジーの為、インライン4では採用が難しいと思われていたが、ヤマハはインライン4で位相同爆を実現するテクノロジー、クロスプレーンカムシャフトを開発し、ロッシが移籍した2004年から投入。それまでエンジンがピーキーで扱い難く、転倒が多かったYZR-M1が劇的に扱い易くなったと言われ、ロッシがそのエンジンをスィートだと高く評価していたのは有名な話だ。

そのYZR-M1のビッグバンエンジンをスィートと表現していたロッシが、ドゥカティのエンジンを乱暴と表現しているのが非常に気になったのだ。

V4とインライン4とエンジン形式が違いがあるとは言え、エンジン出力がマイルドである筈のビッグバンエンジンを同じ様に採用していたら、スィートと乱暴という正反対の表現になる程の違いが生じるものだろうか?

しかも、ロッシは昨年まではドゥカティのフレーム特性の問題に言及してもエンジン特性の問題を口にした事はなかったと記憶しているし、ビッグバンエンジンである事が明言されていたGP12の先行開発車をテストした時は特にエンジンが最高だと絶賛している。

だからこそ、ここに来て急にロッシがドゥカティのエンジンを乱暴過ぎると批判した事が唐突に感じられるし、エンジンが当初のビッグバンからスクリーマーに変更されたと想定すると、2012年になってからロッシの成績が昨年以上に悪化してしまった事も説明出来る様に思えるのだ。

では、もし本当にGP12の現行エンジンがスクリーマーだとして、どうしてドゥカティはその様な変更をしたのか?その理由を推理してみたいと思う。

推理1:ロッシが移籍してから主にフレーム特性の問題でロッシの低迷が続いている。メーカーとしてそのロッシの苦労をエンジンパワーの向上でアシストしたいと考え、ビッグパンよりエンジンのピークパワーを追求するのに有利なスクリーマーエンジンを採用したのではないか?

推理2:ドゥカティは990cc時代に一度スクリーマーとビッグバンを比較テストしているが、その時はカピロッシはビッグバンに特に有効性はないとしてスクリーマーを選択している。その後800ccの時代になり、排気量がダウンした分エンジン特性がピーキーで扱い難くなった為に再び比較テストを行い、その時はケーシー、カピロッシ共にビッグバンの有効性を認めてビッグバンを選択している。その経験からドゥカティは1000ccの排気量ではビッグバンの利点は大きくなくスクリーマーでも問題ないと考えているのではないか?

推理3:現在のレギュレーションでは1000ccエンジンのボア径が81mmに制限されている。これは990cc時代のボア径86mmより小さく、エンジンをロングストローク化する事でエンジンの高回転化によるコストを抑制する目的であり、デスモドロミックという高回転時のバルブ動作の安定性の高さを誇るドゥカティ自慢の特許技術の実力が発揮しにくくなる事を意味する。エンジニアからするとドゥカティの最大の優位性でもあり最大のアイデンティティでもあるこの技術の実力を充分に発揮出来ないというのは不本意であると考えられ、少しでも高回転型エンジンとしたいという考えからビッグバンより高回転型となるスクリーマーを選択したのではないか?

どれも完全な憶測に過ぎないが、ドゥカティというのはやはりエンジンパワーを最大の武器にしてきたメーカーであり、エンジニアにはエンジンパワーで他社に勝ちたいという気持が強くあるに違いないと思う。特に現在はフレーム特性の問題で成績が低迷しているという事もあり、ドゥカティのエンジニアの中には「フレームで勝てないならエンジンで勝てば良い。それがうちの勝ち方だ。」という考えを持つ者が多かったとしても不思議ではない。

特に990cc時代はそのエンジンパワーでは他社を圧倒しており、その時のエンジン形式がスクリーマーだったのだから、当時を知るエンジニアにはスクリーマーエンジンに対する抵抗感はないだろうし、むしろ1000cc化をチャンスと考え、990cc時代と同じスクリーマーエンジンに戻し、再びエンジンパワーで他社を圧倒する本来のドゥカティらしい姿を取り戻したいと渇望したとしても当然ではないだろうか?

その証拠にドゥカティのマネージャープレツィオージ氏は前述の記事の中で予定されていた新仕様エンジンについてこう語っている。 


「1000ccエンジンと言うものは既にトルクが大きいわけですから、それを増やしても役には立たないでしょうし…電子制御システムがより働くようになるだけでしょうね。確証を得るにはコースで走らせてみなければね…」


新仕様のエンジンは高トルク型であるが、1000ccのエンジンは充分高トルクなのでそれによる改善には懐疑的な様である。しかし、それでもテストしようとしていたのは改善出来るという考えの者がいたからだろうし、実際ウェットレースの為、エンジンパワーを抑える事で扱い易い特性になったと考えられるフランスGPでロッシが2位表彰台に立った現在では扱い易いエンジン特性の実現は重要なテーマである事がよりはっきりしたと言えるだろう。

また、ビッグバンエンジンというのは単純にトルクが大きいという訳ではなく、トルク出力の特性自体がスクリーマーエンジンと異なるので、扱い易いというのが正しい筈なのだが、これについてはプレツィオージ氏の誤解なのか、それともやはりGP12の現行エンジンはやはりビッグバンであり、新仕様のエンジンとはスクリーマーとビッグバンの様にエンジン形式が異なる程の根本的な違いがある訳ではない事を示しているかは判断がつきかねる。

エンジンを乱暴と評価したロッシ本人が同じインタビューで「エンジンは800だろうが1000だろうが全く変わりない」とコメントしているのも予測を難しくしている。

だとすれば、ドゥカティのエンジンは800ccでも1000ccでも出力特性に問題を抱えていて、排気量が1000ccになってパワーが上がった事でそれがより顕著になっているという事だろうか?

考えられるのは、ドゥカティのビッグバンエンジンがホンダやヤマハのそれとは方式が違って、ホンダやヤマハ程の充分な効果が得られていないのではないか?と言う事だ。

実はその疑問は990cc時代にカピロッシがビッグバンエンジンを評価せず、スクリーマーを選択した時から感じていたものだ。

ホンダは990ccのRC211Vを開発した当初から迷う事なくビッグバンを採用しているし、ヤマハがスクリーマーからビッグバンに変更して大きな成果を挙げたのも990cc時代の事だ。ドゥカティだけが、990ccではビッグバンは有効性は無く、800ccでは有効だと判断しているのである。それは何故だろうか?

当初僕はそれを単純にカピロッシがスクリーマーの出力フィーリングを好んだからではないかと考えていた。最初にビッグバンを採用したNSR500に乗っていたミック・ドゥーハンも当初ビッグバンの有効性を認めていたが、他のライダーもビッグバンに乗り横並びになってからは、一人スクリーマーを選択し、よりピークパワーに勝るスクリーマーを乗りこなす事で優位性を築こうとし、それに成功している。

僕はカピロッシも同様にスクリーマーのピークパワーと速く感じるフィーリングの方を選択したのではないかと考えていたのだが、元々ドゥカティのビッグバンエンジンには他社のビッグバンエンジン程の効果がないのだとしたら話は違って来る。

800cc時代にはエンジン特性がピーキーになった事で、効果が薄くても990ccの時よりは効果が感じられる様になっただけで、他社のビッグバンエンジン程効果はなかったのかも知れない。

そう考えると、YZR-M1のエンジンをスィートと評価していたロッシが「800も1000全く変わらない」と言ったのはドゥカティのエンジンは800cc時代からスィートではなく乱暴だったという事なのだろうか?と思えて来る。800cc時代に特にエンジン特性の問題に言及していた記憶はないが、単に公言しなかっただけで800cc時代から問題はあったのだろうか?

勿論そういう事も充分考えられる。YZR-M1のエンジンはタイヤに優しいと言われ、レース前半先行していたホンダをロレンソがレース後半逆転して優勝する事が多いのはその為と言われていて、そのタイヤに優しい理由がビッグバンによるトルク特性にあると言われている。

であれば、ヤマハのビッグバンエンジンとホンダのビッグバンエンジンは同じビッグバンエンジンでも出力特性は同じではないと言える。

それはヤマハのエンジンはインライン4であり、ホンダのエンジンはV4なので、その形式の違いが特性の違いになっているという事が大きいのではないかと思う。ホンダとドゥカティは共にV4だが、ホンダは狭角V4であり、ドゥカティは90度V4(L4)なのでやはり特性は異なるかも知れない。

また、同じビッグバンとは言っても、点火タイミングが全く同じとは限らないし、点火タイミングを変える事でエンジン特性も変わると言われている。他にもビッグバンエンジンの出力特性を左右する要素は色々あるかも知れない。

とにかく、今のドゥカティの不振の理由のひとつがその乱暴過ぎるエンジン特性による事はほぼ確かだろう。

僕がGP12の現行エンジンがスクリーマーだと疑ったのは、それならば問題解決はビッグバンにすれば容易だろうという希望的観測からでもある。

しかし、もし現行エンジンがビッグバンだとすれば、その根本的解決は難しいと考えざるを得ない。

そして、もしドゥカティのデスモドロミックL4エンジンが、ビッグバン化しても他社エンジン程扱い易い特性にはならないのだとしたら、その他社を圧倒するピークパワーを発揮する独自のエンジン形式に由来する個性だという事が考えられる。

僕は前項、前々項でドゥカティ独自のL4エンジンのレイアウトが優れたフレーム特性を追求するのにいかに不利であるかを考えて来たが、そのエンジンが出力特性の扱いづらさという面でも解決の難しさを兼ね備えたものなのだとしたら、ロッシの選んだ道はあまりにも険しいものだったと思わざるを得ない。

そしてインライン4エンジンというエンジン形式はフレーム設計の面でも扱い易い出力特性という面でも優れたエンジン形式なのだとしたら、益々理想のレーシングエンジンはインライン4だと言えるのではないかという印象が強くなって来た。

ただ、日本車的なアルミツインスパーフレームをドゥカティに投入する決断をさせたロッシでも、ドゥカティに伝統あるL4エンジンを捨てさせインライン4エンジンを投入させる事は出来ないだろう。出来れば、ドゥカティのエンジニアがL4エンジンをロッシ好みのスィートなエンジンに変身させる名案を見い出して欲しいと願うばかりだ。

いずれにしても今はドゥカティが投入を予定している新仕様のエンジンが功を奏して、ロッシの成績が改善される事を期待して、その投入を心待ちにしたいと思う。

*記事の中でLa ChiricoさんのBlog、イタたわGPを参考にさせていただきました。MotoGP公式サイト以上に有益な情報が満載の貴重なBlogで非常に有難いと思っています。