2012年5月30日水曜日

フレーム特性とライディングスタイルについて

前項ではドゥカティ独自のフレーム特性の問題について触れたが、ここで一般的なフレーム特性の事を書いておきたい。

僕がこれから書く事は、様々なバイク雑誌、レース雑誌の記事から得た知識が基になっている。それに現在はペーパーライダーだが、若い頃は市販車で公道を走っていたライダーとしての自分の経験を照らし合わせたり、レース映像やライダーのコメントを照らし合わせたりして自分で納得して積み上げていったものである。

中でも元カワサキ、スズキ、ホンダで開発ライダーを務めた故阿部孝夫氏のレース雑誌での解説記事で得た知識が大きい。通常、開発ライダーはその仕事の特性上守秘義務があると思われ、マシン開発に関係する詳細な事柄を話す事は先ずない。

しかし、阿部孝夫氏は引退後レース関係の仕事には就かず、漁師に転身した傍ら時々レース雑誌でワークスマシンの試乗記事を書かれていたのだが、その記事の内容は非常に論理的かつ分かり易く、大変貴重なものだったと思う。

氏の記事で印象的だったのは、氏がかつて自身が開発ライダーを務めていたホンダのレースマシンのフレーム設計に対し非常に批判的であり、その一方で国内メーカーで唯一所属した事がなかったヤマハのフレームを大絶賛していた事だ。

氏は開発ライダー時代、自分の主張をなかなかホンダのエンジニアが理解してくれなかった事を明かしている。氏が理想として描いていた特性のフレームを引退後試乗したヤマハのレーサーに見い出したのだろう。それは大変興味深い事だった。

二輪ロードレースの歴史の大部分はホンダとヤマハの日本の二大メーカーの争いの歴史だったと言っても過言ではないと思う。この二大メーカーの戦いはエンジンパワーのホンダとコーナリングのヤマハの戦いだったと言い換えても良い。

これは、エンジンパワーの追求を何よりも最優先していたホンダとエンジンパワーではどうしてもホンダに敵わなかったヤマハがホンダに勝つ為に、コーナリング特性で勝るマシンを開発して対抗しようとした結果という事が出来るだろう。

そのヤマハに対しベストハンドリングマシンという言葉が良く使われる事がある。だが、実際にヤマハの市販車に乗ってみるとフロントはどっしりと重く決して軽快ではない。最近の市販車には乗っていないが基本的には変わっていないと思う。

ヤマハのマシンはハンドルを切って曲がろうとしてもなかなか曲がってくれない。その代わり、ヤマハのマシンは体重をかけて倒し込むと奇麗に曲がってくれる。コーナリング中もどっしりと安定していて狙ったラインを奇麗にトレースしていく安心感があるが、慣れて来ると体重移動で軽快にコーナリング出来る様になり、その時の人車一体感の高さというのがヤマハの大きな特徴と言えるだろう。

ヤマハはフロントステアではなくリアステアで曲がるバイクだと言え、もっと言えばフレームで曲がるバイクだと言えるだろう。

対するホンダは逆にハンドルが非常に軽快である。ハンドルを切れば、フロントステアですいすい曲がっていくバイクである。しかし、その分フロントは神経質で外乱に弱くハードブレーキング時やコーナリング中の安定感、安心感がやや不足している感がある。

これはフレーム剛性の考え方に大きな差があるからだ。ヤマハはフレームには剛性だけではなく柔性も必要だという考えで、コーナリング中にフレームがしなる事で前後タイヤが弧を描く様になりタイトに曲がっていく特性を狙っている。逆にフロントはコーナリング中の安定性を重視してややキャスターを寝かし気味にする方向性だ。

ホンダの場合はとにかくエンジンパワーを重視する事もあり、フレーム対する要求は第一に直進安定性であり、剛性重視という考え方だ。当然直進安定性を重視してフレーム剛性を高めると、コーナリング中もフレームはあまりしならずマシンはアンダーステア傾向になる。

それに対応する為に、ホンダはキャスターを立てたり、最近はやらなくなったが、一時期はフロントに小径タイヤを採用する等して、ハンドリングを軽快にしてフロントステアで曲がっていく車体特性を狙っていると言える。

つまりホンダとヤマハのマシン特性は全く正反対のものだと言える。そしてヤマハ育ちのライダーは必然的にヤマハの特性を生かして走ろうとするだろうし、それが出来たライダーが勝ち残っていくと言えるし、ホンダ育ちのライダーにも同じ事が言える。

だから、ヤマハ育ちでトップに登り詰めたライダーとホンダ育ちでトップに登り詰めたライダーとでは、そのライディングスタイルも正反対のものになるというのが必然だと言えるだろう。

ヤマハ育ちのライダーはヤマハのコーナリング特性の良さを生かして、コーナーを小回りにタイトに曲がって速く走ろうとする様になるし、コーナーを小回りに回れるという事は、コーナーでのバトルに有利でありバトルに強くなる。

一方で、ホンダ育ちのライダーはそのトップスピードを最大の武器にしようと考えるし、トップスピードを追求するとただでさえコーナリング特性の良くないホンダのマシンはアンダーステア傾向が強くなり更に曲がり難くなる。その為、出来るだけトップスピードの高さを生かしながらコーナリングをする為には、出来るだけワイドなラインを通って大回りする分コーナリングスピードを高く保つ事で補おうとする走りになる。

当然そうなって来るとラインの自由度は減り、理想的なワイドラインを走れないと速くコーナリング出来ないため、バトルには弱くなる。

ヤマハライダーの典型的な例が原田哲也選手や芳賀紀行選手であり、ホンダライダーの代表格がマックス・ビアッジや加藤大治朗選手だと言えるだろう。

タイトラインを通り、切れ味の良いコーナリングでライバルをパッシングしてみせるバトルに強いライダーが原田選手や芳賀選手で、とにかくコーナリングスピードやストレートのトップスピードが群を抜いていて、後続をぶっちぎる様な独走のレースをするがバトルになると負ける事が多いというのがビアッジや大ちゃんである。

かつて250クラスでは原田選手対ビアッジ、原田選手対大ちゃんの名勝負が見られたものだが、先行逃げ切りならビアッジや大ちゃんの勝利、バトルに持ち込めれば原田選手の勝ちという傾向があり、特性が正反対のライバル同士だからこその面白さがあった。

現在のMotoGPで同様なライバル関係にあるのがロッシとストーナーだと言っていいと思う。特にそのライディングスタイルの差が顕著に現れたのが2008年のラグナセカのレースだと言っていいだろう。

この時の予選タイムは約0.4秒差だったが、一発のタイムの差でありアベレージではロッシよりストーナーの方が約1秒速かった。普通にレースしたのではロッシには勝ち目がない。

ストーナーの先行を許したら楽々と独走優勝されてしまうのが確実だったが、ロッシはストナーの先行を許さず常にストーナーの前に出るという戦法でストーナーに戦いを挑んだ。

トップスピードの差を生かしてストーナーがストレートでロッシを抜いても、コーナーで必ずロッシはストーナーをかわして前に出る。ロッシはストーナーより小回りでコーナーを曲がれるので、ストーナーがベストラインを走っていてもラインを外してストーナーをパスする事が出来る。

しかし、ストーナーはベストラインを外すと速く走れないので、ロッシが前にいてベストラインを走っているとベストラインを外してロッシを抜く事は出来ないし、それだけでなく自分より遅いロッシにベストラインを塞がれているので、アクセルを緩めるしか無く本来のスピードで走る事が出来ない。

ストーナーの苛立ちは手に取る様に分かる。ロッシは自分の長所を最大限に行かす走りをしているのに、自分は自分の長所をロッシに封じ込まれて発揮する事が出来ず本来の速さで走る事が出来ない。

これはフェアではないというのがストーナーの主張だろう。お互い自分の長所を最大限に発揮してどちらが速いか勝負しようじゃないか。とストーナーは言いたかったのだろう。

しかし、レースはタイムトライアルではない。タイムトライアルではストーナーの方が速かったのは明白だ。それなら決勝レースはせずに予選最速ライダーを優勝にすれば良い。しかし決勝レースをするという事は、単にタイムが速いライダーが優れているのではなく、前を走っているライダーを抜くというパッシングテクニックに優れたライダーにも勝つチャンスがあるのがレースだというのがロッシの主張だと言えるだろう。

そして勿論、レースファンとしての僕もロッシの主張に賛同する。レースはただのタイムトライアルではなく、レースだから、バトルがあるからこそ面白いのだ。

しかし、だからと言ってストーナーの様なトップスピード重視のライダーのテクニックが劣っているという訳ではない。

一般的にはトップスピードの速いマシンに乗っているライダーは有利だと言え、例えばかつてのビアッジや2007年のストーナーにしてもマシンのトップスピードが速かったからタイトルが獲れたと言われがちな傾向があり、トップスピードの速いマシンに乗っていると恵まれているとか不公平だと言われる事もある。

しかし、トップスピードを生かす走りというのも高度なテクニックが必要であり、それほど簡単な訳ではない。トップスピードが速いマシンに乗っていれば簡単に勝てるというのはアマチュアレベルの話と言っていいだろう。

かつて圧倒的なトップスピードを誇るアプリリアのビアッジとの戦いになかなか勝利する事が出来ず「ビアッジに負けてるんじゃない。アプリリアに勝てないんだ。」という名言を残した原田選手は、そのアプリリアに移籍しシーズン終了までビアッジが乗っていたマシンに初試乗した時、思っていた程トップスピードが速くない事に驚き、ビアッジはうまく乗っていたんだと感心したのだという。

勿論、実際にアプリリアはヤマハよりトップスピードは速かったのだと思うが、原田選手とビアッジのトップスピードの差はそれ以上に、トップスピードよりコーナリングを重視する原田選手のライディングスタイルとコーナリングよりトップスピードを重視するビアッジのライディングスタイルの差の方が大きかったと言えるだろう。

トップスピードを最大限に生かすライディングをする為にはその為のマシンセッティングをする能力も必要だし、そのセッティングのマシンを乗りこなすライディングテクニックも必要となる。トップスピードを生かすにはギアレシオをハイギアードにする必要もあるだろうし、サスセッティグ等も固めのセッティングになるのだろうと思うが、トップスピード重視のセッティングを施したマシンはコーナリング特性は悪くなり乗り難くなるのが普通だろう。

その乗り難いマシンを高いスピードを保ちながら乗りこなすテクニックが必要とされる訳でそれは相当に高度なテクニックだと言えるだろう。

この様にヤマハとホンダは正反対の方向性のマシン造りをして来たと言え、その結果として正反対のライディングスタイルを持つライダー達を育てて来たと言える。

しかし、多くの人は疑問に思うだろう。ホンダのトップスピードとヤマハのコーナリング性能に勝るフレームを両立させたら、そのマシンが最速ではないか?何故メーカーはそれを目指さないないのか?

ヤマハの立場から言えば、ヤマハでエンジン開発をしているエンジニアは当然の様にそれを目指している筈だ。しかし、トップスピードではホンダに敵わない。その理由は何故かは分からないが、それが現実だと言える。

では、ホンダの側からするとどうなのか?エンジンパワーに勝るホンダがヤマハの様な特性のフレームを手に入れたら最強に違いない。少なくともホンダで開発ライダーを務めていた阿部孝夫氏にはそういう考えがあったのだろうと思う。では、何故それは実現しなかったのか?

それは、ホンダが伝統的にレーシングエンジンにはV型レイアウトがベストという事からV型エンジンを採用している事と無縁ではない。

単純にエンジン性能だけ追求したらレーシングエンジンとしてはV型エンジンがベストというのは疑う余地がない。4輪レースの最高峰F1でもエンジンは当然の様にV型エンジンであるのが普通だし、近代のMotoGPマシンを見てもインライン4はヤマハ以外は撤退したカワサキが採用していただけで、ホンダ、ドゥカティ、スズキはV型エンジンを採用しており、V型エンジンが多数派である事からも、それは理解出来るだろう。

カワサキはインライン4のメーカーというイメージが強く、長年プロダクションクラスでインライン4の市販車ベースでレース活動をして来たので、MotoGPでも市販車の宣伝と直結するインライン4を選択したのは理解出来る。

しかし、GSX-Rという人気シリーズを擁し、同様に長年プロダクションクラスでインライン4の市販車でレース活動を行って来たスズキがMotoGPでは開発実績がほとんどないV4エンジンを選択したのは、やはりレーシングエンジンとしてはV型エンジンがベストという判断があったからに他ならない。

そして、ホンダというメーカーは特にエンジンパワーを第一に追求するメーカーである。飽くまでもエンジン単体の性能を追求する事を最優先してV型エンジンを選択し、フレームはそれに合わせて制作する。つまりフレームの優先度はエンジンの次という考えがあるのは明白だろう。

しかし、阿部孝夫氏はフレームの設計という視点で考えると、V型エンジンは百害あって一利なしと断言している。

その理由は、ステアリングピポッド部とスイングアームピポッド部を直線的に結ぶフレームを製作すると(それが理想的なフレームレイアウトである事は今更説明はいらないと思う。現在のドゥカを除くほとんどのモーターサイクルがそのレイアウトを採用しているからだ。)、後方シリンダーがフレームを邪魔する形となり、フレームは後方シリンダーの外側を通らざるを得なくなる事から、フレームの形状、特にスイングアームピポッド部の周辺を理想的な形状にする事が困難、と言うよりは事実上不可能になってしまうからだ。

では、ステアリングピポッド部周辺の理想的な形状とはどの様なものだろうか?それは後方シリンダーの存在しないインライン4エンジンを搭載する各メーカーのフレームを見れば明らかだ。

インライン4マシンのフレームはどのマシンもステアリングピポッド部からタンクにかけては非常にワイドで幅が広いがスイングアームピポッド部周辺は幅が狭められて非常にスリムな形状をしているのが分かるだろう。これはホンダのCBR1000RRも例外でなく、ホンダも後方シリンダーという邪魔物がなければ、その様なフレーム形状を理想的と考えているのが見て取れる。

スイングアームピポッド周辺がスリムな形状になっているのは、シート幅を狭めて乗り易くする為と思っている人も多いと思う。勿論それも理由のひとつと考えられるが、それだけではない。

コーナリング特性に優れたフレームは剛性だけでなく適度な柔性も必要と書いたが、フレームの剛性には縦剛性と横剛性があり、柔性が必要なのは主に横剛性だ。

コーナリングの為には前後タイヤが弧を描く様に適度にしなる方が望ましく、その為横剛性は落とした方が良いという事である。

一方ステアリングピポッド部周辺は、ブレーキング時の安定性の為に横剛性も高い剛性が必要とされる。ステアリングピポッド部からタンクにかけて横幅がワイドになっているのはその為だ。従って、ブレーキング時の安定性に悪影響を与えず横剛性を落とせる場所というと必然的にスイングアームピポッド部周辺しかないという事になる。その為、スイングアームピポッド部周辺は横幅を狭めて横剛性を落としているのだ。

V型エンジンは後方シリンダーが存在する為、その理想的な横剛性を持ったフレームを造るのが非常に困難と言え、対してインライン4はV4に比べてエンジンの横幅が広くなるというデメリットがあると言えるが、フレームに干渉する可能性のあるシリンダーは前方にあり、ステアリングピポッド部周辺からタンクにかけては横幅を広げて横剛性を高める必要がある為に、エンジンの横幅が広くなる事はフレーム設計上は特にデメリットになるとは言えず、理想的なフレーム設計が可能という点でV4に勝るエンジンレイアウトであると言えると思う。

MotoGPマシンの中で、ベストバランスマシン、ベストハンドリングマシンと言われているのはヤマハであり、ホンダ、ドゥカティ、スズキのV4エンジンを搭載するマシンが操縦性という面ではヤマハに敵わないという事もそれを証明していると言えるだろう。

また、ヤマハ以外で唯一インライン4エンジンを採用していたカワサキが、最もMotoGP参戦が遅かったにも関わらず撤退間際には経験に勝るスズキを凌駕する所まで急速に競争力を高める事が出来たのもインライン4エンジンを採用した事で、理想的なフレーム設計が可能だったからだと言う事が出来ると思う。

では、V型エンジンを搭載する限り理想的な柔性を持ったフレームを実現する方法は全くないのだろうか?あるいはそれを実現しようとした試みはなかったのか?と言うと、実はホンダがそれにチャレンジした前例はあるのである。

それは、スーパーバイクのVTR1000Rと250ccクラスのGPマシンNSR250で試みられたピポッドレスフレームである。

特にGPマシンであるNSR250にピポッドレスフレームを投入した意図を当時のHRCの責任者はフレームに適度な柔性を与える事でコーナリング特性の向上を狙ったと説明している。つまり後方シリンダーが邪魔でスイングアームピポッド周辺を理想的な形状にして剛性を落とす事が出来ないならスイングアームピポッドそのものを無くしてしまおうという大胆な発想で造られたフレームと考える事が出来る。

その開発の背景には伝統的にピポッドレスフレームを採用するドゥカティがワールドスーパーバイクで強さを発揮していたという事もあるだろう。当時のドゥカティが強かったのは当時のSBKのレギュレーションが4気筒は750ccに対し2気筒は1000ccと排気量面で有利だった事も大きいが、コーナリングで優位性があったというのも事実である。

その事は、単純にフレーム性能の為というより、V型2気筒エンジンの為車体がスリムだった事や、V2エンジンの為低中速トルクが太く、コーナリング立ち上がりで有利だったという理由も大きいと言えるのだが、少なくともフレームは悪くはないという判断もあったのだろう。

その為、レギュレーション上4気筒では勝てないと判断したホンダはドゥカと同じV2エンジンのVTR1000Rを投入するのに際し、ピポッドレスフレームの性能を確認する為にアルミツインスパーフレームでありながら、トラスフレームのドゥカと同じピポッドレスという特殊なフレームを投入したのだろうと思う。

VTR1000Rはコーリン・エドワースの手で2000年2002年とワールドタイトルを獲得し、一定の成果を上げた。ただし、そのVTRの実質的ライバルは同じピポッドレスのドゥカであり、ピポッドのあるオーソドックスなフレームを積む750cc勢はレギュレーション上ライバルになり得なかったと言え、本当にアルミツインスパーピポッドレスフレームが従来のフレームより優れた性能を有していたかどうか結論付ける事は難しい。

一方で、NSR250は充分な成果を挙げたとは言い難い。何しろ前年型NSR250で圧倒的強さで全日本タイトルを獲得した加藤大治朗選手がピポッドレスNSR250が投入された1998年、タイトル防衛どころか転倒に次ぐ転倒でランキング8位に終わる程低迷してしまい、改善が進んだ翌年はランキング2位を獲得するまで復調したが、それでも天才の名を恣にした大ちゃんにしては物足りない成績だと言える。

世界GPでは宇川徹選手が高い順応性をみせ巧みにピポッドレスNSRを操り、常にワークスアプリリア勢に次ぐ順位を獲得し、1999年にはロッシとタイトル争いを繰り広げた上ワールドランキング2位を獲得しているが、その走りを見ると何らかの問題で深くバンクさせる事が出来ないマシンをリーン・イン気味に体をマシンの内側に落とす様にしてコーナリングしており、余りにも苦しい状況を容易に感じさせるものだった。

リーン・インというのは、マシンやタイヤの性能が低く、今の様に深いバンクでマシンを走らせる事が出来なかった時代のテクニックであり、その様な走りをしなければならなかった事は、明らかにフレーム特性に問題があったと考えざるを得ない。

結局ホンダはピポッドレスフレームを諦め、NSRのフレームを従来のスイングアームピポッドのあるタイプに戻している。その従来型フレームNSRで本来の走りを取り戻した大ちゃんは、2001年にもうひとりの天才ライダー原田哲也選手とワークスアプリリア相手にGP史に残る名勝負を繰り広げた上に、年間11勝という圧倒的強さでワールドチャンピオンに輝いている。

アルミツインスパーピポッドレスフレームがホンダが狙っていた様な特性を発揮出来なかったのは明らかだと言えるだろう。そのピポッドレスNSRでWGP参戦の多くの年数を過ごす事になった宇川選手は、非常に不運だったと言えると思うし、そのマシンでロッシに次ぐランキング2位を獲得した事はもっと評価されるべき偉業だと言って良いと思うという事を付け加えておきたい。

この様な経緯があるので、自分としては長年ドゥカティの操縦性の問題はピポッドレスフレームにあるのではないか?と思って来た。2011年シーズン終盤にはアルミツインスパーピポッドレスフレームという、かつて宇川選手や大ちゃんを悩ませたNSR250のフレームを思わせるフレームが登場した時は、その悪夢が再現されるのでは?という悪い予感を感じたのだが、実際そのフレームの実力がどの程度のものだったのか決勝レースで確認する機会がないまま姿を消したのは、安堵すると共に少々残念な気持もある。

いずれにしても、ドゥカティはロッシが求める理想のマシンを造り上げる為に、長年の伝統であるピポッドレスフレームを捨てて、遂にスイングアームピポッドのあるオーソドックスなアルミツインスパーフレームのGP12を登場させた。

L型エンジンを搭載する事によるフレーム特性への悪影響の問題は残るにせよ、ピポッドレスを捨てたという事は、多少なりとも良い効果をもたらすのではないかと期待している。

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