2013年8月3日土曜日

ドゥカティはL型レイアウトのエンジンを捨てない限り低迷脱出出来ないのか?

遂にカル・クラッチローの来季ドゥカティワークス入りが発表された。

C.クラッチロー、ドゥカティ・チームへの移籍が決定

一方で、2011年はそのカルとテック3でチームメイトだったアンドレア・ドヴィツィオーゾは一足早く今年からドゥカティ・ワークスへと移籍し、ロッシの後任という重責の中、開幕戦カタールGPで予選4位というヤマハに復帰にしたロッシを上回るポジションを獲得し、第4戦フランスGPではフロントロウとなる予選3位を獲得する等、好調な滑り出しだったが、第7戦アッセンでは、サーキットとドゥカティとの相性の悪さも影響し、フリー走行総合で予選2へ直行する10位以内に入れなかったばかりか、予選1でも同じドゥカ2台とCRT2台の後塵を拝し予選2への進出を逃して予選15位から、決勝はかろうじて10位に入るという低迷を極め、好調に見えたシーズン序盤の印象を霞ませる状況でシーズンの折り返しを迎えている。

現在のドヴィの状況は、以前このエントリーで振り返ったロッシの移籍初年度の状況を彷彿とさせるものだった。ロッシの場合も移籍直後のシーズン序盤は驚く程好調だったが、マシンの開発が進むに連れ、ニューマシンを投入するに連れ、逆にどんどん成績は低迷して行った感が強い。

2007年にドゥカティに唯一のタイトルをもたらし、ドゥカティを速く走らせる事が出来た唯一のライダーであるケーシー・ストーナーがドゥカを去ってから、ドゥカの不振は長く続いている。

何故、ドゥカは低迷から抜け出す事が出来ないのか?そして何故ケーシーだけがドゥカを速く走らせる事が出来たのか?この二つの問いは表裏一体だと言っていい。

ドゥカの低迷が続いてる原因はL4エンジンレイアウトが車体設計を難しくしているという事と、その問題を認識しているなら少なくともそのフレームと相性が悪いと分かっているブレーキング重視のライダーを起用してはならないのに、どちらかと言うとブレーキングを重視するライダーばかり起用しているからだと言っていいだろう。

ブレーキングを重視するライダーというのは、どちらかと言うと基本に忠実で車体で曲がるライダーだと言う事が出来、ケーシーはブレーキングを重視するタイプのライダーではなく、どちらかと言うと車体で曲がるのではなく、パワースライドで曲がるライダーだと言える。

しかし、ケーシーがドゥカを去った後、ドゥカワークスが起用したライダーはロッシもドヴィも、そして今回移籍が決まったカルもどちらかと言うと基本に忠実な車体で曲がるライディングスタイルのライダーであり、ブレーキングを重視するライダーだと言える。

だから、ロッシもドヴィも移籍した最初は今まで乗って来たブレーキング時の安定性の高い日本製マシンと大きく特性の違うドゥカに、自分の乗り方の方を合わせていたのだと思うが、二人ともドゥカの特性を自分の走り方に合う日本製マシンの特性に近づけて、自分本来の走りを出来る様にする事を目的に、マシンセッティングの改良やマシン開発に取り組んで行ったのだと思うのだが、そうすればする程迷路に迷い込んで低迷してしまうのだろうと思われる。

両者とも、先ずはドゥカの特性を理解し、ドゥカの特性に自分のライディングを合わせて走っていた方が成績が良かったと思われる事からも、ドゥカがL4レイアウトを捨てない限りは、ドゥカの特性に合うライダーのスタイルを理解して、現在のドゥカの特性のまま速く走らせる事が出来るライダーを選んで起用すべきだし、そうではなく、ケーシーの様な突出した独特のライディングスタイルのライダーしか速く走れない様なマシンから脱却したいと考えるなら、L4レイアウトと決別すべきだろう。

しかし、ケーシーを失ってからのドゥカはケーシー以外のライダーでも速く走れるマシンの開発を目指し、その為にホンダワークスやヤマハワークスでの開発経験のあるライダーを起用していると思われるにも関わらずL4レイアウトを捨てるという決断が出来ないでいる。

その戦略が根本的に抱えている矛盾こそがドゥカの低迷の1番の原因であると言っていいと思う。

では、L4レイアウトのどこが問題なのか?を考える前に、世間ではドゥカの抱えている問題を90度V型エンジンを採用している事にあると考えている人が多い様なので、その点の誤解を解いておきたい。今年のプレシーズンホンダのRC213Vが90度V4である事が公表されて世間を賑わせた。

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その話題で引き合いに出されるのはドゥカであり、多くの人がドゥカの問題を90度V4エンジンであると考え、RC213Vが90度V4である事が判明した事で、ドゥカにも技術力があればその問題を解決し、RC213Vと対等なマシンが開発可能である事が証明されたと考えたのではないかと思われる。

しかし、実際の所はV型であれ、L型であれ前後シリンダーの挟角が90度であろうが、75度前後であろうが、それはさほど大きな問題ではなく、それ以上にV型レイアウトかL型レイアウトかという事の方が大きな問題であると考えられる。

その証拠にホンダは80年代からRVFシリーズでは一貫して90度V4エンジンを搭載し、TTーF1、スーパーバイク、世界耐久、8耐で最速最強の名を恣にするほどの実績を残して来ているし、RC211Vで75.5度の挟角を採用したのはV5でバランサーなしで一次振動ゼロとする事が出来た為に過ぎず、V4のRC212Vでは一次振動をゼロにする効果は無くなったが、継続して75.5度の挟角を採用したのはエンジンを少しでもコンパクトにする事で、車体をコンパクトにする事を狙っていたと思えるが、車体をコンパクトにし過ぎたRC212Vではむしろ長い間フロントのチャタリングに悩まされる等問題も多く、特にそこまでしてコンパクトにする意味はなかったと思われる。

特にブレーキングの安定性が乏しく2010年にはとうとうペドロサから、その問題が解決されないなら移籍するとまで迫られて、サスペンションをオーリンズに変更する等車体を大幅に改良してその問題を解消するに至ったが、その結果RC212Vは800cc最終型の2011年型では翌年デビューした1000ccのRC213Vと外観の印象がほとんど変わらない程大柄になり、RC213Vでは75.5度の挟角は補機類のレイアウトが苦しくなる等のデメリットを上回るメリットがないと判断されて90度Vを採用するという結果になっている。

75.5度Vを採用したままの2011年型RC212Vで圧倒的な強さでケーシーがタイトルを獲得しているし、90度VながらRC212Vの延長線上で開発されたと思われるRC213Vではタイヤレギュレーションの問題等でタイトルは逃したとは言え、ケーシーも2011年に引けを取らない速さを見せ、ペドロサも最多勝を獲得する等タイトル獲得に匹敵する程の内容の成績を残した事から、90度Vと75.5度Vのわずか14.5度の挟角の差は車体設計に対する影響がそれ程大きくはない事を物語っていると思う。

では、V型レイアウトに対し、L型レイアウトのどこにそんなに問題があるのかという事を考えて行きたいと思う。

先ず、第1の問題はL型レイアウトだとエンジン長が長い為に普通に車体を設計するとロングホイールベースになってしまう事だと言える。並列レイアウトのエンジンに対し、V型レイアウトでも問題だと言われている事ではあるのだが、L型レイアウトの場合は、クランクケースを基準にして、前方シリンダーがほぼ水平に前方に突き出している為に、現存するエンジンレイアウトの中で最も前後長の長いレイアウトという事になり、V型レイアウトより深刻な問題になっていると言える。

この事は、ドゥカの長い歴史の中で昔から言われている事で、ドゥカの最大も問題と考えられて来たと言って良いと思う。

ロングホイールベースになると直進安定性は増すが、旋回性は悪くなるのが普通であり、旋回性を重視するレーサーの場合は直進安定性を著しく損なわない範囲でショートホイールベースにする事が望ましいのは言うまでもない。エンジン長が長くてもスイングアームを短くすればショートホイールベースにする事は出来るが、スイングアームを短くするとウィリー特性が悪化するし、リアタイヤへのトラクションがかかり難くなる。

この辺りは加速性能だけを競うドラックレーサーが通常より長いスイングアームを採用している事を考えれば、良く理解して頂けると思う。その狙いはウイリーし難くする事と、トラクションを向上させる事にあるのは明らかだ。

そこで、従来のドゥカはスイングアームピポッドレスのフレームを採用する事で、スイングアームの長さを犠牲にする事なく、ショートホイールベースを実現する手法を取って来た。

だが、ピポッドレスフレームにはおそらく剛性が不足するというデメリットがある筈だ。ロッシの様なブレーキング重視で車体で曲がるスタイルのライダーの場合、フレーム剛性というのは最も重要視する項目だろうと思われる。従ってロッシ移籍後のドゥカの開発はフレーム剛性の確保という方向に向かうのは想像出来た事であるし、以前のエントリーでも書いた様に想像通り、アルミフレーム化した上で、ピポッドレスの廃止へと進んで行ったのは必然だったと言えるだろう。

しかし、ロッシ在籍時ピポッドレスを廃止した事に対する悪影響がロッシの口から語れる事はなく、現在においてもドゥカからピポッドレスフレームへ回帰する動きは見られない。

ドゥカがどうやってピポッドレスフレーム廃止によるスイングアーム長不足の問題を解決したのだろう?と疑問を持ち続けていたのだが、最近になってどうやら解決出来ていないと感じさせるニュースが報じられた。

ドゥカティ・チームがミサノで2日間のプライベートテストを実施

この中でアンチウイリーの問題に取り組んだという事が書かれている。ドゥカがウイリーしやすいという問題を抱えているのだとすれば、それはスイングアームの短さが原因と考えられる。しかし、ドゥカはそれを電子制御によるアンチウイリーの改善で解決しようとしているのである。

しかし、それでは根本的解決にはならない筈だ。エンジン出力を調整する事でウイリーをしないように制御するという事は、立ち上がり加速時にエンジン出力を抑える事になり、立ち上がり加速で不利になってしまう。

その時に僕はある事に思い立った。

ドゥカティ GP12の現行エンジンはスクリーマーなのか?

僕は昨年ロッシの「GP12のエンジンは乱暴すぎる」と言っていたのに疑問を感じて上記のエントリーを書いた。その時の疑問は11年にGP12のプロトタイプに試乗した時にはエンジンが素晴らしいと言っていたのに、実際にそのGP12に乗った12年シーズンでは乱暴と言った事で、11年のプロトタイプの時点ではビッグバンだと公表されていたエンジンがスクリーマーに変更になったのではないか?と考えたからである。

しかし、どうやらその推理は間違っていた様だ。エンジンを乱暴だと言ったロッシの言葉をそのままストレートに受け止め過ぎてしまった故の間違いだが、11年に試乗したGP12のプロトタイプと実際にレースで使用された本物のGP12にはエンジン以外に大きな違いがあったのを見落としていたのだ。

そう、11年に試乗したGP12プロトはピポッドレスのカーボンモノコックフレームであり、実戦に使われたGP12はピポッドのあるアルミツインスパーフレームだったのである。

GP12のエンジンが乱暴過ぎたのではない。スイングアーム長の短い実戦用GP12はその為、ウイリーがし易く、そしてリアタイヤにもトラクションがかかり難く、立ち上がり加速時にリアタイヤがホイールスピンし易い等の弊害があった筈だ。

乗っている本人にすれば、リアがスピンし易くウイリーし易いとなると、エンジンが乱暴過ぎると感じたとしても不思議ではない。しかし、それをスイングアーム長が原因と考えず、エンジン特性のせいだと誤解したら、いくらエンジン特性を調整した所で解決する筈もなく、逆にエンジン出力を抑制する事でより競争力を損なう事になるだけだろう。

僕はこのテストがドヴィが散々な結果に終わったアッセンの直後だった事に注目した。アッセン直後のテストでアンチウイリーの改善に取り組んだという事は、アッセンでの不振の一因にそれが関係していたという判断に違いない。

先程も振り返った通り、ロッシはドゥカ初年度のアッセンでは、ロッシが得意とするサーキットだったという事もあり、3位表彰台のドヴィに接近する4位というドゥカ時代のドライでの最高位を残している。

対するドヴィだって、11年に3位表彰台に登っている位だから、アッセンは得意なサーキットだと言っていい筈だ。事実、昨年もサテライトマシンで3位表彰台に登っている。しかし、ドゥカに移籍した今年はロッシのドゥカ初年度の4位とは比べ物にならない低迷振りである。少なくとも11年の段階では、ドゥカに今程深刻なアッセンとの相性の悪さはなかったという事だろう。

では、12年のアッセンでのロッシの成績はどうだったのか?・・確認してみると予選10位決勝13位という惨憺たるものだった。ホンダワークスのドヴィと表彰台を争い、ドライで表彰台に立つ日もそう遠くないと感じさせられた11年のアッセンとは雲泥の差と言っていいだろう。

ドゥカにたった1年でアッセンとの相性をここまで悪くさせる何があったのか?答えは明らかだ。GP11はピポッドレスのカーボンモノコックフレーム、そしてGP12もGP13もピポッドのあるアルミツインスパーフレームである。

最早、ピポッドレス廃止を選択したのは、ドゥカのレース史上最悪の失敗、最大の改悪であると断じるのに充分ではないだろうか?

何故その決断をしたのかと言えば、全てはブレーキング時の安定性を確保する為にフレーム剛性を高める事が目的だった筈だ。しかし、ロッシは結局最後までブレーキング時の安心感を得る事が出来なかったとコメントして、最も安心してハードなブレーキングが可能だと評価するとヤマハに復帰し、現在もドヴィがブレーキング時の安定性が不足している事を課題に挙げる状況は変わっていない。

狙っていたメリットが充分得られていないにも関わらず、ここまで大きなデメリットを許容する理由は微塵もない筈だ。ブレーキング時の安定性の確保をとりあえず先送りにしても、再びピポッドレスフレームに戻す決断をする事が急務であると僕は考えるがどうだろうか?

では、そこまでのデメリットを受け入れてまで、日本製マシンと同じピポッドのあるアルミツインスパーフレームを採用したのにも関わらず、何故ドゥカは未だにブレーキング時の安定性を手に入れる事が出来ていないのか?

その答えもL型レイアウトのエンジン形式に問題があるという事が出来るだろう。エンジンというのはバイクの車体の中で最も重い重量物である。従って車体バランスを考える上で、エンジンの重量バランスは最も大きな要因であるという事が出来る筈である。

フレームを日本製マシンと同じにしても車体バランスが改善されないとすれば、残る問題は明らかである。L型エンジンの重量バランスが悪い為にフレームが同じでも、ドゥカの車体バランスは悪いままなのである。これ以上改善するとすれば、エンジンレイアウトをL型レイアウトから変更する以外に手はないだろう。

では、続いてL型レイアウトのエンジンがどの様に重量バランスが悪いのかという事を考えてみたい。

それを考える上で、先ずはどの様なエンジンレイアウトが重量バランスが良いのかという事を考えると、現在のMotoGPマシンを車体特性の良い順に並べるとヤマハYZRーM1>ホンダRC213V>ドゥカティGP13の順である事は異論の挟む余地はないのではないかと考える。

という事は、単純に重量バランスの良いエンジンレイアウトは並列4気筒>V型4気筒>L型4気筒の順であると考えて間違いないと思う。

並列4気筒とは言っても、ヤマハが80年代にGENESIS思想を掲げて開発した前傾並列4気筒が現在のベストなエンジンレイアウトと考えていいだろうと思う。

前傾並列4気筒エンジンは、それまで4サイクルのプロダクションレースに力を入れて来なかったヤマハがその為に4サイクルの大排気量車のセールスで他社に劣勢だったのを好転させる為にプロダクションレースに本格参入する際にそのベース車として開発したFZ750に初搭載されたものである。

4サイクルのプロダクションレースで他車に遅れを取っていたヤマハだけに、そのレイアウトを決定するのには様々な検討と試作を経ての事だろう。当然レーシングエンジンとしてはベストと考えられていたV型4気筒を採用するプランもあり、実際にプロトタイプのレーシングマシンも製作されたが、最終的にはプロダクションレースーのベースには前傾並列4気筒が採用され、プロトタイプマシンまで製作されたV4プロジェクトは市販車のV-MAXとして結実した。

前傾並列4気筒エンジンはダウンドラフトキャブを採用し、吸気ポートと排気ポートをほぼストレートという理想的なレイアウトにする事が最大のメリットであったが、その事がシリンダーヘッドという幅広な重量物がガソリンタンク直下の高い位置に存在するという重量バランスとフレームレイアウトのデメリットを同時に解決する事になり、新世代の理想的なエンジンレイアウトとしてGENESIS思想を掲げる根拠となっている。

FZ750に搭載されたシリンダーの前傾度は45度であり、従来の直立型並列4気筒に比べエンジン前後長が長くなる事が唯一のデメリットであり、実際FZ750はいかにも前後に長いロングホイールベースと思われるスタイルが特徴的だあった。

しかし、FZ750はそのデビューレースである85年のデイトナ200マイルで、エディ・ローソンのライディングでライバルのフレディ・スペンサーの駆るVFR750Fに破れデビューを勝利で飾る事は出来なかったが、翌年のデイトナ200マイルではフレディとVFR750Fを破って優勝を飾り、レースベース車としての素性の高さを証明している。

だが、8時間耐久ロードレースにそのFZ750ベースのFZR750を開発する事になったヤマハのレース部門はGPレーサーのYZR500と同じディメンションを実現する為にFZ750のエンジンを10度後傾してマウントし、実質的にシリンダーの前傾度を35度に設定した。

FZR750もエンジンブローによるリタイヤを喫し、デビューレースを飾る事は出来なかったが、ケニー・ロバーツの手により当時のコースレコードを更新。レース内容でもRCB以来プロダクションレースの長い経験を誇るホンダの黄金期を築く事になるRVFと現役WGPライダー、ワイン・ガードナーの組み合わせを圧倒していた。プロダクションレースに本格参入したばかりのヤマハがそれだけの成果を上げた事でも、ヤマハが見い出した前傾並列4気筒エンジンのレースエンジンとしての資質の高さを証明したと言えるだろう。

それ以後ヤマハの並列4気筒エンジンは前傾35度を採用しており、他社の並列4気筒エンジンもそれに倣ったレイアウトを採用し、現在ではプロダクションレースの世界では主流のエンジンレイアウトになっており、ヤマハのGENESIS思想の先見性が証明された形になっている。

前傾並列4気筒エンジンがレース用エンジンとしてベストなエンジンレイアウトとするならば、その1番のメリットは後方シリンダーが存在しない事だと言えるだろう。シート下のスイングアームピポッド部やリアサスペンションの設計をする上で邪魔になる位置にシリンダーが存在しない事は車体設計上の大きなメリットになる筈だ。

そして、重量バランスという事で考えるなら、後方シリンダーがなく、シリンダーという重量物が前方に集中している前傾並列4気筒がベストだとすれば、後方シリンダーの存在は重量バランスにおいて大きなデメリットになると考えられる。

ホンダはL型エンジンを自社のアイデンティティと考えているドゥカの様な拘りはなく、エンジンレイアウトがV字に見えようがL字に見えようが構わず、車体設計において試行錯誤を繰り返しベストなレイアウトを模索したのではないかと思うが、ホンダのV型レーシングエンジンは、実際には完全なV字レイアウトという訳ではなく、20度程前傾している。

恐らくは前後シリンダーのあるエンジンとしてのベストな重量バランスは、この20度前傾付近だと考えて良いだろう。

興味深いのは、ヤマハの前傾並列4気筒エンジンでも、ホンダの前傾V型4気筒エンジンでもメインフレームのステアリングピポッド付近のやや下方にシリンダーヘッドが存在するというレイアウトになっている事である。

現在のMotoGPマシンで、その付近にシリンダーヘッドが存在するレイアウトとなっていないのはドゥカだけであり、その事が重要な意味を持っている事が容易に想像出来る。

つまり、メインフレームのステアリングピポッド付近のやや下に最も大きな重量物があるのが前傾並列4気筒エンジン車であり、その部分にその約半分の重量物があるのがV型4気筒エンジン車であり、その部分にこれといった重量物が存在しないのがL型4気筒エンジン車であるという事が出来、これは言い方を変えれば、メインフレームのステアリングピポッド付近のやや下方に重量物があればある程、車体バランスは向上する。もしくはブレーキング時の安定性が向上するという仮説が導き出せる事になる。

それはどういう理由によるものだろうか?考えてみると簡単な事である。ステアリングピポッド部というのは、フロントフォークの支点となる場所である。その付近に重量物があるという事は、ブレーキング時にフロントフォークに荷重がかかり易い事を意味し、フロントフォークに効率よく荷重がかかる程、ブレーキング時の安定性は増すのだろうと解釈する事が出来る。

また、前傾並立4気筒エンジンでも前傾V型4気筒エンジンでも、メインフレームのステアリングピポッド付近からその下方にあるシリンダーヘッドに対しエンジンハンガーが伸びエンジンがマウントされている。メインフレームのステアリングピポッド周辺部は最も高い剛性が要求される部分であるが、両者の場合シリンダーヘッドがメインフレームのステアリングピポッド部の補強メンバーとして活用されていて、剛性を高めるのに一役買っているものと思われる。

ドゥカの場合、その部分にシリンダーヘッドが存在しないので、フレーム自体の剛性が並列4気筒車やV型4気筒エンジン車と同等だと想定した場合、シリンダーヘッドによる補強がない分剛性不足になると考えられる。

それを補おうとすれば、メインフレームのステアリングピポッド部を今以上に幅を広げたり厚くする等する必要があるだろう。というか、他車では存在するシリンダーヘッドと同じ位の重量物を補強メンバーとして追加する必要がある筈だ。

しかしながら、ドゥカの場合、他社のシリンダーヘッドが存在する場所には、レイアウト的にはエアクリーナーボックスが存在すると考えられ、それは不可能だと考えられる。また仮に出来たとしても、他車であればそれをシリンダーヘッドという必要な部品で兼用出来るのに対し、ドゥカの場合、シリンダーヘッドを兼用せずに同じ位の補強メンバーを加える事を想定すると、その分車重が増えるというデメリットを伴う事は避けられない。

シリンダーヘッドという重量物が存在すべき場所にエアクリーナーボックスという、恐らくは非常に軽く剛性も低いパーツが存在すると考えれば、そのデメリットの大きさは想像するに難くないと思う。

それだけではなく、前方シリンダーがほぼ水平という、限りなく前寄りの低い位置にある事、後方シリンダーがほぼ直立という高い位置にある事も、重量バランス的に大きなデメリットとなっている事も間違いないと思うが、そのデメリットを検証するまでもなく、L型レイアウトというのが、如何に多くのデメリットを抱えているレイアウトなのかが理解出来るのではないかと思う。

こう考えると、L型レイアウトを採用している限り、ハードなブレーキングを得意とする様なライダーには全く不向きなマシン特性を改善する事は全く不可能だと考えざるを得ない。

L型レイアウトを諦めるか、ブレーキング重視のライダーでも速く走らせる事が出来るマシン開発を諦めるかの、二者択一をするしか道がない事は分かると思う。この矛盾する二つの事を両立させる事はどんなに考えても不可能なのだ。

L型レイアウトを捨てると言っても、今のエンジンをそのまま35度程度後傾してマウントさせれば、それで済む話だと思う。エンジンの設計は変えてない、ただ、少し後傾してマウントしただけで、L型エンジンである事には変わりはないと主張する事も出来なくはないだろう。

しかし、ドゥカのアイデンティティがそれを許さないのだとすれば、ドゥカはブレーキング重視のライダーでも速く走らせる事が出来る特性のマシン開発を諦め独自の道を進むしかないだろう。

異なったエンジンレイアウトのマシンが同じ特性になる事はあり得ない。ドゥカが飽くまでもL型レイアウトを採用し続けるのであれば、ロッシ移籍以前の様に、L型レイアウトに合った車体設計を追求し、その車体特性に合ったライディングスタイルのライダーを起用、または育てる事を考えるしかないと思う。

おそらく、L型レイアウトのエンジンに最もマッチする車体は、ドゥカが長年のノウハウの果てに辿り着いたピポッドレスのカーボンモノコックフレームではないかと思う。

その完成の域に到達したマシンで、ロッシはウェットレースとは言え、最速のRC212Vに乗り絶頂期にあったケーシー・ストーナーと互角以上のバトルをして、接触転倒させしなければ優勝していたかもしれないと思える程のレースをした。

多分、あの時のGP11はドゥカのレース史上、最も完成の域に達したレースマシンだったのではないかと思うし、結局実戦に投入される事はなかったピポッドレスのカーボンモノコックフレームを採用したGP12が投入されていたら、ロッシとドゥカの2012年シーズンにはもっと違ったストーリーが待っていたのではないかと思う。

結局、ロッシとドゥカの2年間はロッシの決断が間違っていた事を証明する2年間であったのと同時に、ロッシが移籍する前までのドゥカティの歴史が間違っていなかった事を証明する2年間だったのではないかと思う。

結局L型レイアウトエンジンを搭載するドゥカの特性を、前傾並列4気筒エンジンを搭載するヤマハM1を理想の特性とするロッシの望む特性にしようという考え自体が根本的に間違いであり、そもそも不可能な挑戦だったのだ。

ロッシは自らの間違いを認めて、ドゥカを去った。しかし、ドゥカは今もロッシ移籍以前の自らの歴史は間違っていなかったと認める事が出来ず迷走を続けている。

僕は全てのメーカーのレースマシンが同じ方向性の特性になる必要はないと思うし、レースマシンもライダーも個性があってバラエティに富んでいた方が面白くていいのではないかと思う。

ドゥカティには、是非とも自らのアイデンティティを胸を張って肯定して、日本メーカーとは違う独自の道を進む決断をして欲しいと思う。

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